連載 「ドクター伊地智の宇宙ことはじめ」 第8回 地上局
地球上の俗世間との絆?

地上局は衛星運用に欠かせない重要な施設だ。日ごろあまり聞くことにない地上局について触れた、ドクター伊地智の宇宙ことはじめ第8回。

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  • 衛星は地上局により管制・運用されている
  • 大容量の電波を送受信するため人里離れた自然の中に建てられることが多い
  • 衛星の運用終了時には電波の送受信を止める「停波」作業を行う

「衛星はなんで飛んでいるの?」

駅で「電車はどこを走っていますか? 」との問いに対し、「線路の上!!! 」の回答・・・というギャグを知っている人は古い人間である。「衛星はなんで飛んでいるの? 」という問いに対し、「ホモサピエンスの大脳皮質のなせるわざ、欲!!!」が対応する回答であろう。

地上局、もっと正確に表現すれば「地上追跡管制局」で、文字通り衛星を追跡し、衛星の状態をモニタし、人間の目的を果たすための指令コマンドを送る設備であり、よく写真では大きなバラボラアンテナを備えた設備として紹介される。ただし広い意味での地上局は、通信衛星の衛星回線の送受信局や、地球観測衛星のデータ受信局等も含まれるが、今回の宇宙徒然としてつぶやく主題ではない。

地上局は対話の絆

地上局は宇宙で仕事をしている衛星や探査機に対して、地上でその衛星や探査機を利用している人間との間での対話の絆である。すなわち衛星や探査機への「アップリンク」のコマンドデータとして、衛星が活動するために必要な指令や情報を送り、「ダウンリンク」によるテレメトリデータにより衛星の状態を知り、かつ活動の成果を受け取り、結果として人間のやりたいこと、例えば惑星探査機による新たな知識や知見(知識)、通信衛星や地球観測衛星によるビジネス(金銭)、微少重力環境での新薬の創製(長生き)や新材料の製造(物質・金銭?)、スパイ衛星による敵対国の監視(安全)、等から始まり最近は宇宙観光やエンタテイメントへの利用も視野に入って来ているが、等々のホモサピエンスの大脳皮質の活動から来るところの「欲」を充たすための絆である。

地上局による衛星コントロール

衛星が定常の運用状態となり、ビジネスを開始した場合は専用の追跡管制局より行う場合が多いが、ロケットによる打上げから分離・軌道投入後の暫くの間の、衛星がロケットによる過酷な振動衝撃環境、初めての熱真空環境への遭遇、さらには一番問題となるロケットの打上げ失敗のリスク(残念ながらまだ世界のロケットは飛行機のような信頼性には達していない)に対応するため、地球上の各所に配置された地上局のネットワークにより継続的に見守られ、必要なコントロールが行われる。

日本のJAXA、米国のNASA及び欧州のESAはそれぞれ世界に配置した地上局ネットワークを有し、さらに各機関は連携して衛星打上げ直後のいわゆる「クリティカルフェーズ」と呼ばれる、打上げ後数日の間の衛星との絆を確保するとともに、万が一の場合に衛星を救うための対応を行う。例えばロケットの不具合により予定より少し異なった軌道に投入された場合、各機関連携してまず衛星がどの軌道を飛行しているかを計測し、さらに衛星に搭載されている推進系を使用して可能な限り当初計画した軌道に復帰させたり、また予期せぬ不具合により姿勢がひっくりかえったりした場合はバッテリーが上がる前にすみやかに正常な姿勢に戻したりすることである。

既に紹介したSFU(※1)の打上げとスペースシャトルによる回収の際は旧NASDA(現JAXA)とNASAの地上局ネットワークの支援を得、USERS(※2)の打上げの帰還回収の際は旧NASDAとESAの地上局ネットワークの支援を得て行われた。

※1 スペースフライヤーユニット(SFU)
多様な目的に利用可能な多目的宇宙プラットフォームのインフラとしての実現するのを目的とし、1995年3月にHII-3号機にて打ち上げられた。
第1回 日米、宇宙で最初のランデブーSFUプロジェクト(連載 「ドクター伊地智の宇宙ことはじめ」)
https://www.sorakoto.space/serialization/kotohajime/01/

※2 次世代型無人宇宙実験システム(USERS)
Unmanned Space Experiment Recovery System。「無人で宇宙実験の成果を持ち帰る宇宙システム」で、宇宙利用のインフラの整備を目的としたプロジェクト。2002年9月11日に打ち上げられた。
第2回 地球に帰還するとは地球軌道との衝突であるUSERSプロジェクト(連載 「ドクター伊地智の宇宙ことはじめ」)
https://www.sorakoto.space/serialization/kotohajime/02/

自然から突如現れる巨大なアンテナ

さらになんと言っても圧巻なのは深宇宙探査機との絆となる地上局であろう。微弱な電波を受けるためにそのパラボラの大きさ(日本の宇宙科学研究所所属の臼田宇宙空間観測所のアンテナでは直径64m)もさることながら、人里離れた外部からの電波干渉の少ない山の中か砂漠の中に建設されている。日本の臼田宇宙空間観測所のアンテナ場合、人里からゆうに45分にも及ぶ、谷沿いの道を車で辿ると、突然林の上に巨大なアンテナが現れるのである。NASAの深宇宙ネットワークのスペインに有るマドリッド局では、荒涼とした岩山が続く道をひたすら車で走った先に忽然と現れる。また地球から遠く離れた深宇宙からの微弱な電波による絆を守るために、使われる通信バンドを妨害しないよう隣接する周波数からの混入を防ぐルールが作られ、宇宙の関係者は厳密に守っている。

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長野県の八ヶ岳の東側に位置する臼田宇宙空間観測所の64mパラボラアンテナ。はやぶさ等の深宇宙探査機の運用に使用される。

USERSの最終コマンド送信はマリンディ局から

深宇宙探査向けでない普通の地上局でも、概して町中を離れた風光明媚(?)なところに設置されている。それは人里からの混信を軽減するのみならず、最大でkwクラスの電波を送信する関係にて、人里より離れた場所に建設される。その最たるものを紹介しよう。

USERSの帰還の最終コマンドを送る地上局としてはESAに所属するMalindi局の支援を得た。Malindi局はケニヤのインド洋に面した赤道直下のMalindiという町から北北東方向に約50kmほど行った半島に位置している。USERSの帰還に際しての局の準備を行っていた2001年当時、局と宿泊していたMalindiの市街地の間の地域は電気も通っていない湿地帯で、夜になると人工の光は全く存在しない。準備作業の終了が深夜に及んだ新月の夜であったが、帰途の途中車のライトを消し夜空を見上げると赤道直下の降るような満天の星や天の川、さらには南十字星...。ロマンですな。一同疲れも空腹も忘れてしばらく見入っていた。


kiji_02.JPGケニヤの赤道直下のインド洋に面したマリンディ局(USERSの帰還カプセルの帰還指令に使用)

衛星との絆を絶つ「停波」

ところで本題に戻り、この「絆」を絶つ時がある。それは衛星の方が故障して予期せぬ別れとなる場合もあるが、衛星がそのミッション(目的)を全て果たした場合は、宇宙のゴミとならないように短期間にて大気圏に再突入して燃え尽きる軌道に下げた後、衛星からの電波を止める「停波」の処置を行う。(電波は限りある資源であるので)

ところがである。停波したのに数日で生き返ってしまった衛星が有った。USERSにおいて帰還したカプセル部分に対して通信や電力等のリソースを提供していた部分(サービスモジュール)はカプセル帰還後も軌道上に残り、民生部品や民生技術の宇宙への転用に関する試験を約2年にわたって実施していた。そしていよいよそのミッションも終了し、軌道も下げて事務的に「停波」したのだが、衛星の方が地上への「絆」を求めたのか、はたまた不遜な態度で停波をしたのが気に入らなかったのか、絆が復活してしまった。技術的な原因ははっきりしたのであるが、二度目は神の霊宿ったご神体を丁重に敬うようにして「停波」処置を行い、不遜な言葉を慎むようにしたのは、「神の国の日本人」ならではのことである。ちなみにUSERSのサービスモジュールは、その2年後の2007年6月15日(金)に南米沖大西洋上にて大気圏に再突入して消滅し、「星」となりました。

近い将来、衛星にもAIが搭載されるようになるであろう。ホモサピエンスがネアンデルタール人に優っているのは大脳皮質による想像力と個人間のコミュニケーションであることは既に話題とした。想像力には個性があり、もっと言えば異なる個性から生じる「意思」をコミュニケーションによりぶつけ合い、結果として各自納得できる組織としての意思となり、ホモサピエンスはネアンデルタール人を滅ぼしたのであろう。AIの進歩により、AIが意思をもてるようになる近い将来、衛星は自分が遭遇した様々な問題に対しては自分の意思と判断にて対処出来るであろう。もちろん上との「会話」は行われるであろうが、決して「彼女」(宇宙船は女性名詞)にそっぽを向かれないように上はご機嫌とりに心すべしである。

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