連載 「ドクター伊地智の宇宙ことはじめ」 第6回 宇宙システムと想像力

衛星やロケットなどの宇宙システム開発に必要なのは想像力と、サクセスクライテリア(成功基準)。ドクター伊地智の宇宙ことはじめ第6回。

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  • 未知に対しての想像力が宇宙システムを作る
  • ロケットは開発段階ごとにサクセスクライテリア(成功基準)を設けている
  • サクセスクライテリアに応じて順序立てて開発を進めていく

未知に対しての想像力が宇宙システムを作る

飛行機は、ホモサピエンスが鳥と同じように空中を飛びたいという願望により、鳥を手本として実現したものである。空気を利用して空中に浮き、空気を利用して進み、さらに空気を利用して行きたい方向に舵をとる等々である。もっともスピードや運べる荷物の量では鳥を超えているが、ハヤブサやフクロウの狩りに見られる運動性能においてはまたまだ鳥には及ばない。それでも、鳥に倣って空を飛ぶ試みを続け、ライト兄弟により始めて人間が空中に浮くことを実現できた。

ロケットや人工衛星等の「宇宙システム」は飛行機よりもさらに広い個別の技術分野を包含し、それらを総合したものである。しかもそれらの宇宙空間でのシステムとして期待する「振る舞い」は地上の人間の経験で見聞きする範囲ではなく、想像するしか方法は無い。例えば、無重力、真空で対流の無い世界、軌道力学に基づく飛行等々。

ホモサピエンスの大脳の能力は、その想像力にある。多分ネアンデルタール人との闘いにおいてホモサピエンスは、単に言葉によるコミュニケーションにより経験を共有するだけではなく、想像力により戦略-闘いにおいて勝つというイメージとそれに至るステップ-を立案し、そしてそれをコミュニケーション能力により組織として共有して戦った結果であろう。

その想像力の証拠は、理工学の分野では、古くはレオナルドダビンチの飛行機の図、ニュートンの古典力学、マックスウエルの電磁気学、アインシュタインの相対性理論、芸術の分野では葛飾北斎の「富嶽三十八景 神奈川沖浪裏」波の表現に始まる壮大な宇宙の概念であり、さらにホモサピエンスがお互いに平和に殺し合うことなく生きるための政治社会体制(三権分立や民主主義思想)の知恵の案出、さらには第二次世界大戦後のハプスブルグ家による欧州統合思想(EUの概念)の普及である。

開発段階ごとにサクセスクライテリアを設定する

さて前置きの話が大きくなりすぎてしまったので、話を宇宙システムに戻そう。

ロケットが正常に飛行し、その与えられたミッションを達成するには適切にシステムを構成する各要素がそれぞれ与えられた機能性能を達成する必要がある。特に宇宙に行くロケットは重量の制約もあるので、バランスの取れた機能性能配分とする必要があることからシステム設計者としては想像力逞しくシステムの振る舞いを想像し、構成する要素技術の機能や性能、並びに限界を設定し、さらにその検証段階においては、その時点でのサクセスクライテリアを設定し、それに基づいて評価する必要がある。

サクセスクライテリアとは何か。すなわちシステム開発段階では一足飛びに最終的なシステムを完成することは不可能で、段階を追って最終的なシステムの形態に到達する。そのためその段階ごとにサクセスクライテリアを設定し、それに従って結果を評価して段階、いや「階段」を登って行く。下からFailure、Minimum-Success、Success、Extra-Successが通常よく使われるサクセスクライテリアである。

例えばロケット開発における「最初の打上げ試験」では、ロケットエンジンが点火して推力を発生して上昇し始めるのがMinimum-Success、ロケットエンジンが正常に動作を続けることがSuccess、さらにロケットシステムとしての機能性能をはたせたらそれはExtra-Successであるとか。固有名詞を挙げて申し訳ないが、この当方のサクセスクライテリアに従えば、2017年夏のインターステラテクノロジズ社の打上げは"Success"と位置づけられる。決して失敗ではないのである。

201611月_100kmロケットMOMOイメージ横.png

2017年夏に打ち上げられた、MOMO1号機。高度100kmまでは到達しなかったが、緊急停止後、予定落下区域内に落下させた。データ公開を行うなど、今後のロケット開発に向けて大きな前進となった。(C)インターステラテクノロジズ株式会社

飛行機に対する鳥のように自然界での手本の無いシステムの開発においては想像力を逞しくしてあるべきシステムの姿を想像し、開発の段階毎のサクセスクライテリアを設定して順序立てて開発を進められるのが、ホモサピエンスの真骨頂というべきことであり、宇宙に進出できるのはホモサピエンスのみであるということになる。

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