(C)JAXA

連載 「ドクター伊地智の宇宙ことはじめ」 第5回 
電離層観測衛星(うめ、うめ2号)

インターネットが普及する以前の遠距離通信は短波帯で行われていた。それを観測していたのが「うめ」「うめ2号」だ。ドクター伊地智の宇宙ことはじめ第5弾。

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  • インターネットが普及する以前の遠距離通信は短波帯
  • 電離層の状態を監視する「うめ」「うめ2号」
  • 電離層の観測は地震観測にも必要と国際会議でも議論されている

音声交換コミュニケーションの歴史

約600万年前に地球上に現れたとされる人類の特色は、進化の結果として大脳皮質を発展させ、経験に基づいて後天的に知恵を蓄積し、動物界の頂点に立った。その中でもホモサピエンスは口の構造を進化させ、その蓄積した情報を他のホモサピエンスと音声情報にて交換することにより、社会的組織的な活動(闘い)により、身体的にはより上回った能力のネアンデルタール人を滅ぼし、現在に至っている。今では海底ケーブルや通信衛星が整備され、距離や国境にかかわりなくインターネットで結ばれ、地球上どこでも地理的な条件によらずに情報の共有が可能となり、それに基づく社会システムとなりつつある。

遠距離通信は短波帯で行っていたインターネット以前

しかし1960年代までの遠距離通信の主役は短波(約1MHzから30MHzの帯域)であった。地球は丸いのに直進する電波が何故に地球の裏側まで届くのかと言えば、上空に電離層があり、それが短波帯の電波を反射するからである。現在ではインターネットのスカイプ等で無料でTV電話が出来る時代なのに対し、当時はあまり明瞭ではない音声電話が3分で3000円程度かかる時代であり、また世界に展開する日本の商船に対しては短波によるトンツーでの無線電報が主役であった。

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「うめ」の予備機「うめ2号」。1年半のミッション期間終了後も1976年から1983年まで観測データの取得を続けていた(C)JAXA

電離層観測の必要性

そのため、電離層の状態の監視が良好な短波通信のカギであるので、日本の宇宙開発の初期の時代に電離層観測衛星を開発して打ち上げた。「うめ」および「うめ2号」である。電離層は上層大気が太陽からの光や粒子の衝突により電離した層であり、夜と昼、太陽からの粒子線の量等らより影響を受ける。みなさまも実感されているかと思いますが、AMラジオの聞こえ方が昼と夜で変わるのも電離層の状態が昼と夜で変化するからです。2017年9月6日21時頃発生した大規模な太陽表面爆発で、カーナビ(GPS)に影響が出るかもとの記事などは、電離層の状態が変わるせいである。

ところではなしは脱線するが、ホモサピエンスの大脳皮質の記憶は学習に基づく後天的なもので、DNAに書き込まれたものとは異なり、生まれ変わるごとにリセットされる欠点がある。蛇やワニなどの爬虫類を人間が「恐怖」するのは、DNAに記憶された恐竜時代にほ乳類が虐げられた記憶と言われているが、日本に数百年の周期にて繰り返し襲ってくる大地震とそれに起因する大津波については、その周期が人の一生を大きく越えているせいか、最近になって考古学的に証明されるまでは、単なる予測不能な天変地異と捉えられていた。歴史の学習にて事実はある程度は伝承されてはいるが、「恐怖」としては伝承されていないわけである。

さて話は元に戻り、まだ学会で認められた定説とはなってはいないが、東日本大震災の数日前から電離層にその兆候が見られたとの観測結果がいくつか報告されている。これは日本だけではなく欧州においても関心は高いようで、2011年の東日本大震災の直後にウクライナで行われ、当方も参加した国際宇宙航行アカデミー(International Academy of Astronautics)の先進的宇宙技術に関するシンポジウムの会合において、急遽有志によるラウンドテーブルが開催され、電離層観測衛星のコンステレーションにより巨大地震の発生を予知することが熱く議論された。

なにはともあれ、インターネット時代でも電離層は引き続き存在しているので、アマチュア無線免許証と無線局の免許を取り、10W程度の短波のアマチュア無線機で、CQ、CQ、CQ(アマチュア無線において「受信された方は応答願います」のコール)と世界に呼びかけても楽しいかもね。

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