連載 「ドクター伊地智の宇宙ことはじめ」 第2回 
地球に帰還するとは地球軌道との衝突である
USERSプロジェクト

日本で初めて宇宙実験の成果を自ら持ち帰った、実用の宇宙機USERS。その開発に携わった伊地智博士が当時のミッションを解説する。

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  • 日本で初めて宇宙実験の成果を持ち帰った、実用の宇宙機
  • 宇宙機の帰還に必要な計算
  • 帰還したUSERSは上野国立博物館に展示されている

次世代型無人宇宙実験システム「USERS」プロジェクト

1995年、当時の通産省は、予算上の名称にて「次世代型無人宇宙実験システム」というプロジェクトを立ち上げた。略称で「USERS」と称し、この英語の名称がプロジェクトの目的の実体を正確に表している。すなわち、Unmanned Space Experiment Recovery Systemの頭文字であり、文字通り「無人で宇宙実験の成果を持ち帰る宇宙システム」のことを示している。もちろん利用者あってのビジネスであり、「USERS」はそのことも念頭にネーミングした。USERSは、実験機器を搭載し地上に帰還するカプセル状のReentry Moduleと、それに電力や通信等の様々なリソースを提供するService Moduleが一体となり、H-IIAロケットで打上げられ、約一年にわたり軌道上にて宇宙の産業利用活動を行った後、カプセル状のReentry Moduleを切り離し、自ら目的とする地上の場所にピンポイント帰還する、宇宙利用のインフラの整備を目的としたプロジェクトであった。

このプロジェクトを発足させた背景としては、SFUの地上への帰還が他国のシステムに頼っているということがある。日本の宇宙ビジネスのインフラとしてはその制約から外れる必要がある。さらに有人宇宙システムであるスペースシャトルを利用する場合は有人対応の厳しい安全要求を満たす必要があり、産業利用としてはコストが高くなり、さらには安全上実施出来ない場合もあるという問題もあった。

USERSは2002年9月11日に打ち上げられ、2003年5月30日の朝、帰還カプセルは小笠原東方沖の帰還予定海域のほぼ中央にピンポイント帰還を果たし、日本で初めて宇宙実験の成果を持ち帰る、実用の宇宙機となった。H2A-3号機打ち上げ_USERS(JAXA).jpg

HIIA-3号機で打ち上げられたUSERS(C)JAXA

USERS帰還戦略

その帰還のための戦略を示す。宇宙空間では全ての物体はそれぞれの質量(引力)に従ってニュートン力学により予定された「軌道」を飛行している。これは人が地面の上を気ままに歩き回ったり、飛行機が空気の力に頼って行きたいところに飛行するのとは全くことなる。まず帰還する前に地球と帰還する宇宙機の軌道を交わるようにし、かつ同一時刻に両者を交わる点に存在させるようにする必要がある。地球から火星へ飛行して火星に到達することを考えると判りやすい。すなわち地球から火星の軌道と交わる軌道を設定し、火星と交わる箇所で時間的に火星と衝突するようにすることである。

USERS宇宙機は地球の周りを回りながら太陽の周りを公転しているわけであるが、帰還するにはその軌道を地球表面に衝突するように制御するということである。またピンポイントで地球上の特定の場所(地表面)に帰還させるということは地球の自転を考慮し、軌道とUSERS宇宙機の飛行場所の時間を制御することである。

USERSの場合の戦略は、まず回収地点の上を毎日通過する一日回帰の「位相回帰軌道」を飛行するようにし、さらに帰還時間のタイミングについては、軌道を少し上下させて調整を行う。そしてここで登場するのがSFUのスペースシャトルによる回収時に学んだ「コントロールボックス」という概念である。誤差や再突入の空力条件の不確定性も考慮し、宇宙空間の位相回帰軌道上において再突入のための逆噴射ロケットに点火して良い条件、その条件を満たせば地上で待ち受ける回収船にその日の内に回収可能であるという空間と時間を定義し、その条件を満たした事を確認、すなわちそのコントロールボックスに入った事を確認して「点火」した。

着水地点を日本の近くでかつ人口の疎密な地域というと小笠原東方沖の公海上ということになり、その海域に帰還するための逆噴射ロケットに点火する「コントロールボックス」はアフリカ東海岸ケニヤの上空にある。ちょうど「運の良い」ことに、その地域に、欧州宇宙機関が、少々古くはなっているが、地上局を設置しており、その局を整備し、帰還カプセルの分離や逆噴射ロケット点火のコマンド送信に利用するための「アフリカ探検隊」が組織された。もちろんそのメンバーはそれなりに「苦労」したことは言うまでもない。

USEF資料_USERS02.png

小笠原沖にて着水したUSERSを回収する

帰還する宇宙機は緊張感も二倍

さて最後に帰還とは地球との衝突なのに何故無事に軟着陸できるかと言えば、それは地球大気のおかげである。地球大気との相対速度は突入直後では秒速8km程度であるが、大気の抵抗により徐々に減速され、最終的にはパラシュートを開いてゆっくりチャポンと着水する。減速の際、その運動エネルギーは帰還カプセルの表面にて熱エネルギーとなり、表面を融かし、蒸発させることにより冷却し、カプセル内部には浸透しないで搭載している宇宙実験の成果を守るようにしている。上野の国立博物館にそのカプセルが展示してあるが、表面の白色塗料は剥げ落ち、かつ表面は炭化している。

ところで、普通の衛星であれば「ハラハラドキドキ」は打上げの時の一回であるが、帰還する宇宙機の場合はもう一度帰還する時にある。まあ宇宙屋として「一粒で二度美味しい」のが帰還する宇宙機で、さてさてこのキャッチフレーズを記憶している人はかなり古い人間である。

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