連載 「ハイパースペクトルセンサHISUI」 第16回 
塩害による土地の劣化を把握したい

スペクトルを切れ間なく観測する驚異のセンサHISUI

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 土壌の塩害に対する関心は高く、塩害対策のための研究が各国の研究機関で進められています。しかし、塩類集積の程度を、広域かつ効率的にモニタリングする技術の開発は未だ十分とはいえません。
 これまでも、マルチスペクトルデータを用いた塩類集積把握の試みはされてきましたが、マルチスペクトルデータはバンド幅が広く、バンド数も限られているため、塩湖のように地表に塩類が晶出して白くなった地域(不可逆的な塩害地域)とそれ以外の地域を分類することしかできませんでした。しかし、政府、地方政府研究機関、土地管理者、環境保護団体等は、このような塩湖の抽出よりも塩害化の初期段階の情報を必要としています。塩害化の初期段階で情報が提供されれば土地の再生計画に生かすことができ、劣化を食い止めることができるので、初期段階を把握するための手法開発が求められています。

現在の研究実績

 本事例で対象とした西オーストラリア州には"WheatBelt"と呼ばれる小麦の穀倉地帯が広がり、栽培された小麦の多くが日本に輸出されています。しかし、この地域の塩害はオーストラリアで最も深刻なため、早急な塩害対策が必要です。本事例ではこの地域を対象地として土壌塩害推定マップの作成に取り組みました。
 本事例では、航空機で観測されたハイパースペクトルデータを用いて、複数の土壌タイプに適用可能な汎用的な推定手法の開発を行いました。
 既往研究から、塩分濃度が増加するのに伴い1900nm周辺に見られる吸収のピーク位置が長波長側に30nm程度シフトすることや、塩分濃度が高くなると1965nmから2000nm付近に吸収の肩が出現することが報告されています。
 本事例では、塩類濃度の増加に伴う吸収の変化に注目して、1970nmから2130nmの波長帯に含まれる全てのバンドを用いたNDXI(ここでは、全バンド総当りの組み合わせ計算によって最も相関の高い指標を求める手法を指す。)の手法に従い、塩害化の指標値(SI)と塩分濃度の関係を調べました。その結果、2027.3nmと2008.6nmにおける値の差分値が最も相関が高いことが分かりました。この指標値と採取済の土壌のEC1:5の分析値との関係からEC1:5の推定式を作成し、土壌塩害推定マップを作成しました。この推定マップで用いられた波長の選定は、ハイパースペクトルデータを使うことで可能となりました。
 現地調査で採取した土壌試料を使って推定精度を検証した結果、分布パターンを正しく抽出できていることが確認できました。既存の土壌塩害推定マップでは塩類集積の有無だけしか分かりませんでしたが、この手法を用いることで塩類集積の程度まで推定できる可能性が示されました。

塩害.jpg

期待される活用方法

<食糧生産の向上>
 塩害化している圃場に対して耐塩性を持つ小麦を導入することで、小麦の収量が1.5~3倍に増え、収量が0だった耕作放棄地からも収穫ができるようになると考えられます。

<水資源問題>
 塩害地では水源の塩害化による飲料水や生活用水の確保が困難になっています。土壌の塩害化低減策に貢献することで、これらの水資源問題の解決に繋がると期待されます。

<世界的な気候変動へ与えるインパクトの軽減>
 塩害化対策の一環で植林活動が行われていますが、土壌の塩害化の程度に対応しない樹種は生育の途中で枯死しています。植林活動の計画立案の際に、本研究成果の土壌塩害推定マップがあれば、各塩害化の程度に対応した樹種の選択ができるようになります。

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