連載 「欧州宇宙ビジネス最前線」 第10回欧州宇宙政策カンファレンス出席レポート

欧州宇宙戦略カンファレンス(European Space Policy Conference)がベルギーブリュッセルで開催され欧州連合としての宇宙政策と今後の戦略について発表された。

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  • 欧州連合次期予算における宇宙への予算増額
  • 宇宙空間把握能力の強化
  • 宇宙と防衛の連携の強化

今までの欧州の宇宙開発は基本的に欧州宇宙機関(ESA)やドイツやフランスといった欧州主要国の宇宙機関の管轄だったが、欧州連合の地球観測プログラム「コペルニクス」とナビゲーション衛星システム「ガリレオ」の運用開始により、欧州連合も宇宙開発の重要なプレーヤーになりつつある。

これに伴い、欧州連合は欧州宇宙戦略カンファレンス(European Space Policy Conference)を毎年1月にベルギーのブリュッセルで開催している。ここでは欧州連合としての宇宙政策と今後の戦略について2日間に様々なパネルディスカッションが行われ、政策について発表を行う訳だ。

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(カンファレンスの様子。Copyright Business Bridge Europe 2018)

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(カンファレンスの様子。Copyright Business Bridge Europe 2018)

このイベントの凄い所はその集まる顔ぶれである。欧州連合の大物政治家や有力者、欧州連合の内閣ともいえる欧州委員会、更に欧州大手宇宙企業のCEOや有識者など、産官の大物が一同に集結する。日本に例えるなら内閣総理大臣と各大臣、衆議院の有力議員や省庁の次官クラスの人物が集まる様な話であり、この事から欧州の宇宙に対する本気度が伺えよう。

第10回目となる本カンファレンスは800人以上が出席し、多彩な議論が行われた。本レポートではまず全体のまとめを紹介し、各パネルディスカッションにおける主な発言を後半にまとめる。

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(カンファレンスが行われたエグモント宮殿。Copyright Business Bridge Europe 2018)

カンファレンス内容のまとめ

1.欧州連合次期予算における宇宙への予算増額

欧州連合と欧州委員会は2021年から始まる7年間の次期予算について議論を進めており、今月5月、欧州委は中期の予算の枠組みである「多年次財政枠組み」(MFF)を巡る提案を行った。英国のEU離脱による予算の減額は避けられないものの、欧州政府、産業界の代表者は共に宇宙への予算の大幅な増額を主張した。

2.宇宙空間把握能力の強化

宇宙空間を漂う宇宙ゴミの検出や追跡、そして宇宙空間の衛星軌道をキチンと把握しておかなければ衝突事故により、多大な被害が出る可能性がある。そこで本カンファレンスでは数年前から宇宙空間把握(Space Situational Awareness、SSA)及び宇宙監視・追跡(Space Surveillance & Tracking、SST)能力の強化の必要性が謳われてきた。今までは米国のSSA・SSTインフラによって賄われてきたが、米国が協力の停止をを示唆する発言をしている事から、欧州独自のSSA・SST能力の整備が早急な課題となっている。

3.宇宙と防衛の連携

欧州連合は、前年のカンファレンスでは宇宙と防衛の連携について統一された意思表示は行われなかった。しかし今年のカンファレンスでは欧州防衛機関(European Defence Agency)の代表者が招聘され、軍事活動に貢献する衛星システムの開発について言及された事から、欧州における宇宙と防衛の連携は今後強まっていく事が予想される。

開会の挨拶

カンファレンスは、まず欧州委員会のNo.2である、副委員長兼欧州連合外務・安全保障政策上級代表Federica Mogherini氏のスピーチによって始まった。

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(欧州委員会のFederica Mogherini氏。Copyright Business Bridge Europe 2018)

Mogherini氏は、宇宙ゴミの増加や小型衛星コンステレーションの台頭によって混雑することが予想される宇宙空間をより良く管理し、宇宙の交通を潤滑に推進する為には、欧州はSSAとSSTの整備と、政府用通信衛星への取組の重要性を説いた。氏は更に宇宙を利用した経済外交を強化していくと述べた。

次に欧州委員会、域内市場・産業・起業・中小企業担当委員Elzbieta Bienkowska氏は、欧州連合地球観測プログラム「コペルニクス」のデータへのアクセスをより容易にし、新たなサービスやアプリの開発を推奨するエコシステムの重要性を説いた。次の予算要求ではプログラムの継続性を保てる様、新たなセンチネル衛星を今後配備していくと述べた。

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(欧州委員会のElzbieta Bienkowska氏。Copyright Business Bridge Europe 2018)

欧州宇宙企業協会Eurospace代表、Jean-Loic Galle氏は、産業界としては宇宙プログラムはまず継続性が最重要であると強調し、次に政府用通信衛星、宇宙における安全保障、宇宙からの海洋監視といった新たなプログラムを打ち出して行くべきと述べた。

セッション1-将来の為の宇宙戦略

欧州議会のFranck Proust議員は宇宙技術を用いた経済外交によって新たな市場を目指す事が欧州のリーダーシップに貢献すると述べ、更に欧州宇宙機関(ESA)の最高戦略責任者Kai-Uwe Schrogl氏も宇宙はグローバルに展開するべき分野であると同意を示した。更にESAでは来る大型衛星コンステレーションに向けて宇宙交通管理(Space Traffic Management、STM)への取組を行っていると述べた。

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(セッション1のパネリスト達。Copyright Business Bridge Europe 2018)

次にAirbus Defence & Space社宇宙システム部長・執行副社長、Nicolas Chamussy氏は、欧州が宇宙において主要プレーヤーである為に、2021-2027年は、政府による宇宙への投資を2014年から2020年までの120億ユーロから200億ユーロに増額する事を欧州連合に提案した。

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(セッション1のパネリストの一人、欧州宇宙機関長官Jan Woerner氏。Copyright Business Bridge Europe 2018)

セッション2-先進的で持続可能な欧州のための宇宙

欧州議会Dominique Riquet議員と欧州委員会交通担当委員Violeta Bulc氏は、宇宙技術が交通業界(自転車/自動車シェア、航空交通管理、貨物船の規制、ドローン)に大いに貢献していると述べ、更にBulc氏は宇宙交通管理を担当する国際機関を設立するために国連と協力することを提案した。

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(セッション2のパネリスト達。Copyright Business Bridge Europe 2018)

コペルニクスを統括する欧州委員会成長総局(DG-GROW)の宇宙政策・コペルニクス・防衛部、部長のPhilippe Brunet氏は、コペルニクスの地球観測データは都市計画において重要な役割を果たしていると述べ、欧州連合のGNSSシステム「ガリレオ」と共同で人々の移動や交通の管理、そしてドローンのナビゲーションにおいて新たな付加価値を提供していくと述べた。

次にAirbus Defence & SpaceのシニアバイスプレジデントJohannes Von Thadden氏と、欧州委員会副委員長兼エネルギー同盟担当委員、Maros Sefcovic氏は、コペルニクスの優位性を保つ為には欧州連合の次期宇宙予算を2倍にする事を主張した。

セッション3-宇宙へのアクセスと安全な運用

欧州委員会成長総局(DG-GROW)の副事務局長Pierre Delsaux氏は、宇宙への独立したアクセスの必要性、サイバーセキュリティ、SST、宇宙天気の監視の重要性を主張し、将来的には宇宙ゴミや宇宙交通管理に関する世界レベルの規制が必要になるかもしれないと指摘した。

欧州議会議員Marian-Jean Marinescu氏は、宇宙への予算を増額する事を求め、更に今年は宇宙交通管理に関するパイロットプロジェクトを発表したことを伝えた。

欧州宇宙機関ESAの宇宙輸送部部長Daniel Neuenschwander氏は、欧州の打上業界を維持するにはまず年間最小限の打ち上げ回数を欧州政府が保証すべきであると言及し、業界としてはコストを削減し、リスクを取る事でもっと積極的にグローバル市場を攻めるべきであると述べた。

ArianespaceのCEO、Stéphane Israël氏は、激化する世界市場での競争に打ち勝つには、欧州連合のニーズに適合したより安価な打上機と、市場の進化に適応したモジュラー型のロケット構造が必要であると述べた。

セッション4-グローバル舞台で強い欧州である為の宇宙

欧州委員会成長総局Philippe Brunet氏は、コペルニクスのオープンフリーデータ政策による他国とのデータ交換協定を、経済外交の良い例として挙げた。 また、氏は、COP21で提案された目標を達成するにあたり、グローバルレベルでのデータ共有システムを提案した。SSTに関して、米国はSSTと宇宙天気の監視のために欧州とのパートナーシップを求めており、この点では体制が整備される可能性があると指摘した。

欧州連合の外務省ともいえる欧州対外行動局の宇宙特使François Rivasseau氏は次の複数年予算要求では追加予算を要求し、欧州連合に追加資金を供与することは欧州宇宙機関ESAに与えられる費用が減る訳ではないと強調し、両者が共存する事の必要性を述べた。

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(カンファレンスの様子。Copyright Business Bridge Europe 2018)

セッション5 - 宇宙に対する欧州政府の財務支援について

イタリアの経済成長省長官Ivan Scalfarotto氏は、宇宙データ利活用などの川下サービスを促進する為、欧州各国共同の事業や補助金を強化する事を提案した。氏は欧州の打上能力の維持については国際競争に対抗する為には低コスト化も重要だが、欧州連合が欧州打上事業者の最大の顧客として担保せねばならないと論じた。

イタリアの打上業者AvioのCEO、Giulio Ranzo氏は、欧州企業にとって海外市場は重要であると強調し、税制優遇措置による輸出支援を提案した。

セッション6 -欧州の更なる繁栄のための宇宙

欧州連合のナビゲーション衛星システム「ガリレオ」を運営する欧州GNSS機構の事務局長Carlo de Dorides氏は、複数の衛星が互いに協力し、大局的に運用する事が重要であると述べ、衛星へのサイバー攻撃の観点からも今後はハイブリッドシステムにおける衛星の統合は不可欠であると強調した。

欧州宇宙機関ESAの地球観測プログラム部門部長Josef Aschbacher氏は、欧州連合の地球観測プログラム「コペルニクス」の次のフェーズをESAと欧州委員会で共同出資する事に向けて準備していると発表した。

セッション7 -欧州の安全保障と防衛のための宇宙

まず欧州委員会Elzbieta Bienkowska委員の内閣のThomasz Husak氏は、多くの宇宙プログラムは本質的に民事と軍事のデュアルユース性を有していると述べ、欧州打上産業を維持するには欧州委員会の各局や政府機関機関を含む政府省庁による調達が不可欠であると論じた。

欧州防衛機関EDAの事務局長Jorge Domecq氏は、今後はサイバー空間、海上監視、政府通信衛星において宇宙と防衛の連携に向けて欧州委員会と欧州宇宙機関と連携していくと述べた。

イタリア宇宙機関ASIの事務局長Roberto Battiston氏は、イタリア政府は10の政府省庁が集結する省庁包括対話を実地した事を発表し、防衛、輸送、環境などにおいて宇宙との相乗効果について議論している事を伝えた。

最後に

産官の主要人物が集まり、盛大に開催された欧州宇宙政策カンファレンスだったが、中でも印象的だったのが、宇宙を戦略的重要分野として認識し、産官が協力して議論を進めている点であった。欧州はこの手の産官協力体制を組むのが上手く、本カンファレンスの様に、今後の欧州の宇宙開発について産官のニーズをちゃんと理解し、政治的なプライオリティーを明確にし、次期プロジェクトの仕様に取り入れていく流れを作る所は日本もぜひ参考にしたい。

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(カンファレンスの様子。Copyright Business Bridge Europe 2018)

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(カンファレンスの昼食休憩の様子。産官で盛んな交流が行われる。Copyright Business Bridge Europe 2018)

文責:宇宙ビジネスコンサルタント 佐藤龍一

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