連載 「欧州宇宙ビジネス最前線」 欧州における地球観測データ利用と再生可能エネルギー分野:後編

地球観測データを再生エネルギー産業での利用が注目を浴びている。

この記事は、約8分で読めます。

記事のポイントを見る
  • 再生エネルギーには、気象情報と気候変動データが必要
  • 建物のエネルギー効率性の認証スキームの実装において、衛星監視データが有用
  • 各再生エネルギー毎に地球観測データに対するニーズが異なる

欧州では、欧州連合の地球観測プログラム「コペルニクス」の利用の裾野の拡大の一環として、定期的に「コペルニクス×○○」という風に毎回テーマを変え、他産業との交流とニーズを把握するワークショップを行っている。2017年10月12日にベルギー、ブリュッセルで開催されたワークショップ「Copernicus4Energy」では、再生エネルギー分野における地球観測(EO)データとコペルニクスの利活用にフォーカスし、再生エネルギー産業関係者、地球観測データサービス事業者、政府関係者と、50人以上が出席し、地球観測データに対するエネルギー業界の現状とニーズについて様々なプレゼンが行った。

前編の記事から続き、今回はワークショップの登壇者のプレゼン内容と主な発言について紹介していきたい。

まず太陽光や風力等、自然の力をエネルギー源とする再生可能エネルギー業界では気象情報と気候変動に関するデータが非常に重要である。なぜなら天候によってエネルギーの発電能力や長期的なトレンドが左右されるからである。

更に欧州では風力と太陽光発電を共同で運用しているエネルギー事業者も多く存在し、エネルギー供給インフラも複雑になってくる。従って発電能力をパラメータ化し、より数学的に分析する事が必要になってくる訳であり、コペルニクスの6つのデータサービスの1つである、気候変動サービスを運営する欧州中期気象予報センターのCarlo Buontempo氏は、今後は風力発電係数や太陽電池容量係数といった発電能力を数学的に示すパラメーの変化を気象データを元に予測する事へのニーズが高まっていくと述べた。

衛星による地球観測データの利活用は何もエネルギー事業者に限った事ではない。欧州の地方自治体の多くは持続可能な都市開発に向けて省エネ政策を実地しており、これに伴い建物のエネルギー効率性や消費量の測定が将来必要となる。欧州委員会エネルギー総局のAndreea Strachinescu課長は、今後、建物のエネルギー効率性の認証スキームの実装において衛星監視はデータの収集や比較に大いに役立つポテンシャルがあると説明した。

bb-thumb-1070x714-932.jpg

この他に、各再生エネルギー毎に地球観測データに対するニーズと考えを以下に紹介する。

風力発電業: Vortex社 

風力発電業者に様々なソリューションを提供するスペインの中小企業Vortexは、シミュレーションモデルによるデータ処理を行う事で風力の仮想時系列データ等、幅広いデータプロダクトを風力発電所に提供している。衛星データと現場データを融合する事で発電所の立地選定や、建設・投資の意思決定支援、発電所の運営支援等に役立てる事ができると述べた。

水資源管理:BRLi

フランスのコンサル会社BRLi社は、アフリカにて水資源管理に地球観測データを使用しており、現場データと組み合わせる事でコンゴ川などの大きな河川流域の水位をモデル化している。コペルニクスのデータは水位の高度計測アプリケーションに適しており、更なるサービス開発が期待できると述べたが、衛星データを使用してビジネスを行うにはデータの可用性と継続性が必要不可欠であると強調した。

太陽光発電:MINES ParisTech大学

MINES ParisTech大学のBlanc教授は、太陽光発電では衛星データは気候の統計データと組み合わせる事で太陽光プラントの立地及びサイジングを決める時に使用されると説明。しかし様々な時間スケールの高分解能のデータが必要であるとも述べた。

海洋エネルギー:Noveltis社 

Noveltisは、海洋再生可能エネルギー発電事業者向けにソリューションを開発している。海洋再生可能エネルギー発電の立地を選定する際、その場所の発電ポテンシャルを分析し、現場センサーによる高価な監視を補完する為には、長期的な時系列データが重要であると述べ、 地球観測データは、コスト削減の観点からとても期待できると見解を示した。今後は海面高度や現場データの充実、水深や潮汐に関するデータがあると尚良いとの事であった。

エネルギーインフラ監視:GMV社 

GMVは、近隣の樹木による送電線への侵食の監視に地球観測データを使うプロジェクトに参加している。地球観測データの使用する事で、送電線付近の樹木の樹高、樹木密度、樹木へのケーブル距離の特定、そして付近の土地利用の変化といった多くのパラメータを効果的にデータを収集できる事が可能になる。

バイオマス発電:RSS社 

RSSでは、ドイツの各地方での再生可能エネルギーのポテンシャルを評価するプロジェクトを実施しており、地球観測データは、エネルギー潜在力の測定と、エネルギー需要のモデリングに役立てられている。コペルニクスは内陸水位、表面アルベド等、エネルギー分野に関連するデータ製品を多数提供しており、これらを用いる事でバイオエネルギー潜在力のマッピングや、経済的および生態的生存性の評価が可能である。

各再生エネルギー事業関係者の発言をまとめてみると、地球観測データは2つのニーズがある事が分かる。一つは気候変動等による発電所の将来の収益性への影響といった、すなわちリターン・オブ・インヴェストメントという観点から見た投資の意思決定を支援する長期的な観測と、二つ目はメンテナンスや日頃の運用の最適化という、もっと短期的な観測であるといえる。

日本では再生エネルギー産業における地球観測データ利活用の検討はまだ始まって間もないが、欧州では新たな利用分野として大いに注目されており、大企業・スタートアップ企業双方がサービス開発に向けて積極的に取り組んでいる事が伺えるワークショップであった。日本も同様に、「地球観測データサービスのユーザーと成りうる」産業の関係者と地球観測データ事業者を交えたイベントを打ち出していく事が、兼ねてから言われている「利用の裾野の拡大」に繋がるのではないかと思われる。

bbb-thumb-1122x748-934.jpg

(文責:宇宙ビジネスコンサルタント 佐藤龍一)

月に一度、宇宙開発や宇宙ビジネスに関する
最新ニュースをお届けします。

Go to page top