連載 「欧州宇宙ビジネス最前線」 欧州宇宙ビジネス最先端
ルクセンブルグの宇宙政策

人口約50万の小国、ルクセンブルクは宇宙採掘のシリコンバレー?宇宙ビジネスで注目を集める国を、欧州駐在スタッフが解説。

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  • 宇宙ビジネスで注目されるルクセンブルグ
  • 手厚い企業支援に加え法整備もされている
  • 企業と政府の関係性も近く、宇宙ビジネスには最適な環境

2016年、欧州の小国であるルクセンブルクは国の成長をかけて宇宙探査への本格参戦を表明した。宇宙資源探査を国家の重点政策として位置づけ、ルクセンブルクを「宇宙採掘のシリコンバレー」になることを目指している。本記事ではそれに至った背景と、ルクセンブルクの革新的な宇宙政策の内容についてレポートする。

そもそも宇宙資源探査とは?

太陽系内には小惑星と呼ばれる天体が数多く存在する。その中でも実際に地球の地表に到達したものが隕石である。小惑星は直系数十メートルから数十キロメートルに及び、数は確認されているもので30万個以上である。小惑星の中にはレアアースなど豊富な鉱物が含まれているものもあり、これらを採掘し、地球に運ぶ事で利益を上げる「Space Mining(宇宙鉱業)」は将来の宇宙ビジネスとして注目を浴びている。2003年に打ち上げられた日本の探査機「はやぶさ」もこの先駆けであり、小惑星イトカワの資源調査を行った。

しかし小惑星採掘の重要点は鉱物以外にもう一つある。それは水の発見である。水から水素を抽出する事でロケットの燃料を生成できるのである。宇宙に衛星や宇宙飛行士を送る時、行きと帰りの燃料を持っていく必要があるが、水を含む小惑星を「宇宙のガソリンスタンド」として利用できれば、極端な話、余分に燃料を持っていく必要がなくなる。この空いたスペースを利用して他の補給・開発物資を運ぶ事で、宇宙開発は劇的に進むと言われている。

ルクセンブルクという国と宇宙に至った背景

ルクセンブルクは人口58万人足らずの小国である。しかし小国なりの戦い方もある。1960年代は鋼鉄業、1980年代は通信衛星産業、近年は金融とITと、常に時代に応じて次の有望産業を察知し、政府主導で育てる事で、国⺠1⼈当たりの購買⼒平価ベースのGDPが世界2位という、小さきながらも経済力のある国に成長した。

これには小国だからこそ成功する為に将来を常に予見し、改革に取り組み、ある程度リスクを取る事が必要だったとも言える。ルクセンブルクの政府関係者も国民も「ルクセンブルクは小さい国だから時代の流れに合わせて産業を変えていかなければ生き残れない」と語る。よって常に先を見て次の一手を打つスタンスは国家としての戦略なのだろう。そして現在、「宇宙」を次の投資分野として方針を固めている。

2つ目の理由としては「脱金融依存」が挙げられる。低い法人税率や銀行秘密保持法によって欧州の金融大国として君臨するルクセンブルクだが、90年代後半からその税負担の軽さから、欧州連合や OECDに事実上のタックスヘイブンとみなされ、強い非難を浴びてきた。国際イメージを払拭すべく「宇宙」を全面的にプッシュしているとも考えられる。

実はルクセンブルクと宇宙の関係は深い。1980年代の通信衛星産業の黎明期には、地元の⼈⼯衛星事業者であるSESを育てるべく、財政⽀援や法改正を⾏う事で、今では世界で2番⽬に⼤きな⼈⼯衛星事業者を擁する事になった。同じ寸法で今度は宇宙、しかもまだ他国がそれほど手を付けていない宇宙資源探査で成功しようという訳だ。宇宙に限らず、ハイリスク・ハイリターンのビジネスというのは基本的に先に入った者がゲームをルールを設定し、主導権を握る事が多い。宇宙資源探査がビジネスとして本格的に始動するのは2030年以降と言われているが、ルクセンブルクも今から先手を打つ事で将来の宇宙産業の中核を担う事を狙っている。

ルクセンブルクの宇宙政策、ここがすごい

上述の背景からルクセンブルクは宇宙資源探査を自国の方針とし、宇宙資源産業の新たなグローバルハブになろうとしている。この野心的な目標の達成に向けて同国政府は資金援助を初めとする各種支援制度と法整備を含む、非常に前衛的、且つ実用的な宇宙政策を展開している。この宇宙政策の凄さを下記に渡って紹介する。

1. 企業への手厚い財政支援

宇宙資源探査は日本の「はやぶさ」と欧州のミッション「ロゼッタ」のみであり、ほぼ前例がない。すなわち宇宙資源産業といってもほぼゼロからの始まりであり、宇宙探査を担う企業を育てなければならない。それには企業をルクセンブルクに誘致するインセンティブと、企業が活動しやすい環境を作る必要がある。

その最初の一歩として2016年2月には同国の経産省が宇宙資源3イニシアチブ「SpaceResources.lu」と呼ばれる宇宙基本計画を発表した。まず産業振興の資金的バックアップとして、同イニシアチブは国内に欧州本社を設立する宇宙関連ベンチャーに対して、5年間に渡り2億ユーロ(約258億円)の与信枠を設けることを発表した。ルクセンブルクに移転したい支社を開設した企業に対し、研究開発助成金やローン、株式購入といったあらゆる金融メカニズムを通し、直接投資を行っていく。更にこれらの企業は欧州宇宙機関ESAの助成金も申請できる。金融業界が発達しているルクセンブルクだけに、将来官民の連携するVCファンドができる可能性もある。

これらの優待措置は早くも成果を挙げており、米国の宇宙採掘ベンチャーのPlanetary ResourcesDeep Space Industriesに加え、小型観測衛星による大型コンステレーションを運営しているPlanetがルクセンブルクに支社を開設した。日本の宇宙ベンチャーのiSpaceも2017年から欧州拠点を置いている。他にも複数の宇宙ベンチャーを交渉しており、今後は宇宙技術者、起業家、そして投資家が集まる欧州宇宙産業の新たなハブとして成長していく事が予想される。

2. ビジネス面を考慮した法整備

しかし資金面で支援しても、宇宙採掘企業に小惑星から得られた資源の権利が無ければ意味がない。よって宇宙資源採掘が促進される法環境が必要だ。1967年に発効した国連の宇宙条約では原則として宇宙空間の領有を禁⽌しており、⺠間企業が採掘した資源に対する所有権が認められるかは明確でなかった。

法的にグレーの状況では、規模の⼩さいベンチャー企業にとってはリスクが多く、事業に踏み出し辛くなってしまう。そこでルクセンブルク政府は2016年11月に、企業に宇宙から取得した資源の所有を許可する法律の草案を作成した。その後、急ピッチで法案として議会に可決され、2017年8月1日から施行されている。この法律の第1条では、宇宙資源を所有できることが定められている。

ここで重要なのは「宇宙「資源」の所有」としている点である。小惑星で企業が採掘を行った場合、小惑星自体に所有権を与えるのではなく、法案は得られた水や鉱物のみ対象としている。こうする事で前述の国連宇宙条約とバッティングしない訳である。

同じ論理で米国も⼩惑星で⽔や鉱物等の資源の商業的な探査と利⽤を認める「2015年宇宙法」を施行しているが、適⽤の対象となるのは⽶国の市⺠権をもっている⼈や米国出資を受けている企業のみとなっている。しかしルクセンブルクの法案では、事業所の住所が国内にありさえば誰でも適用可能なのだ。これもまた企業にとってルクセンブルクを他国より魅力的にする工夫となっている。

3. 政府としても本気度と経産省との連携

数百億円に及ぶ直接投資と、宇宙資源法案が立案から施行まで1年もかからなかった事から明らかになってくるのはルクセンブルク政府は宇宙産業に対し本気だということだ。豊富な資金援助と良心的な法整備のセットで、国策として積極的に取り組んでいるのは現時点ではおそらくルクセンブルクだけだろう。他で宇宙産業の育成に活発な国は米国と英国だが、ルクセンブルクのペースほどではない。

さらにルクセンブルクの宇宙政策は同国のエティエンヌ・シュナイダー副首相兼経済大臣が主導している。すなわち経産省による、産業化を目的とした方針なのである。最初からビジネス重視とすれば国益に繋がる訳であり、政策としても話が通しやすい。しかも前述の通り、ルクセンブルクには常に次なる有望な産業に投資する風土がある。

4. 小国ならではの立ち回りの良さ

ルクセンブルクの宇宙政策は、経済大臣を兼務するエティエンヌ・シュナイダー副首相だけではなく、グザヴィエ・ベッテル首相も全面的に協力している。すなわち国の2トップが直接宇宙政策を担当しているのだ。これも小国だからこそ成せる体制だろう。

さらに小国であるがゆえに、コミュニティが小さい。すなわち企業は経産省を初めとする政府のキーパーソンとほぼ直接話ができる。産業界が直面している課題や必要としている施策について直接言及できるのだ。そして政府も即、行動に移す。小さいコミュニティだからこそ話も通しやすく、また行動に移しやすい、というわけだ。政策展開のペースが早いのも頷ける。ルクセンブルクの企業経営者に話を伺った所、ルクセンブルグ政府の風通しの良さは産業界の成長と団結に大いに役立っているとのことであった。

ルクセンブルクの宇宙政策の特徴は、「国としての先見性と政府の組織力を活かした資金援助と法整備」とまとめられるが、これもある意味小国だからこそできることなのかもしれない。日本のように膨大な政府組織ではそう容易く真似できることではないかもしれないが、宇宙産業政策を考える上で大いにヒントになる筈である。

(文責:宇宙ビジネスコンサルタント 佐藤龍一)

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