連載 「日本宇宙開発史から読むビジネスチャンス」 第3回
進化する宇宙ベンチャー、カリフォルニア発(その2)

日本の宇宙開史とともに歩んだからこそ見える、日本の宇宙ビジネスのこれから。元JAXA理事、現三菱電機株式会社宇宙システム事業部顧問、山浦雄一氏によるコラム、第3回。

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  • 超小型衛星の価値が広がった、10年の変化
  • 人と環境を重視、明るい仕事場
  • 超小型衛星のビジネスモデル、進化の実例

学生教材から飛躍した超小型衛星

2016年のカリフォルニア話題に行く前に、少し時間を戻して超小型衛星について述べる。
2003年6月、日米欧加の大学がそれぞれ製作した6機のCubeSat(キューブサット)が、世界で初めて打ち上げられた。6機中ミッション運用まで成功したのは3機。うち2機が東京大学と東京工業大学の衛星であった。CubeSatとは、各辺10cmの立方体(1Uと呼ぶ)を並べた形の衛星で、3つ並べた3Uの衛星は10cm×10cm×30cmの直方体。最小のCubeSatは1Uのサイコロである。

CubeSatなど超小型衛星に関して私は、後輩・中須賀研究室を始め先生・学生達の元気な取組みが深化し、全国の学生教育に拡がることを頼もしく見守る、という感覚で長年過ごしていた。
私が超小型衛星への認識を大きく変えたのは、2012年~2013年頃のことである。この頃シリコンバレーでは、ガレージ発ベンチャー(現Planet社、後述)が投資家の資金を得てCubeSatビジネスを加速していた。また、ユタ州立大学で1987年から毎年開催される「小型衛星カンファレンス」が益々活況を呈し、議論・参加者が学生教育から実用に変化している状況にあった。
米国の動きに触発された私は、JAXA理事に就任した2013年、超小型衛星に取り組む日本の大学や民間企業との対話強化が必要と考え、東京大学、九州工業大学、キャノン電子㈱、㈱アクセルスペースを訪問した。各所現場での対話を通じて、日本においても、ビジネスモデル設定、新規技術適用、途上国関係強化などの、学生教育だけに留まらない幅広い意識で超小型衛星に取り組む人々がいることを実感した。
2012年10月から、超小型衛星がISS「きぼう」のエアロックから放出されるようになった。かつては考えられなかった「きぼう」の用途である。6年後、2018年10月時点で世界29カ国の224機が放出されており、エアロックは今や「国際協力&商業利用ゲートウェイ」、人気スポットである。若い頃にエアロック開発を担当し用途を心配していた私は、大いに安堵している(笑)。

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ISS「きぼう」での大西飛行士の超小型衛星放出準備作業(JAXA

人重視、お洒落で開放的な仕事場

2016年9月、漸く米国ベンチャー視察が叶った。コラム第2回の結びはここに繋がる。
理事であった私は、JAXAの何部署かの部長級や30代の若手男女など多様性重視のメンバー構成で視察チームを作り、シリコンバレーとサンフランシスコに出掛けた。訪問先は若手に選んで貰ったのだが、魅力的な所が多く一部訪問先は二手に分かれ分担した。
視察チームは、まず日本企業とJETROから現地の文化や現状を教わり(コラム第2回参照)、続いてNASAエームズ研究センター/リサーチパーク、宇宙ベンチャー数社、非宇宙ベンチャー数社を訪れた。各社にほぼ共通なのは、仕事場がカフェ風や遊び心で洒落ていて、オープンな空間に集会場所や息抜き出来る場所があって、IT技術を上手に使い、楽しそうに仕事をしていたこと。
会社がイノベーションに一番重要な「人」に配慮し、「人」が仕事(思考、対話)し易いオフィス環境を整えている。我々チームメンバは、エコシステムの基本中の基本をいきなり見せつけられた。

超小型の利点を活かす逆転の発想

本稿では、Planet社とOrbital Insight社で実見した「目からウロコ」の衛星ビジネスを紹介する。紙面の都合でこの2社だけになることをご容赦いただきたい。
Planet社は、NASAを辞めたエンジニア達が、今迄の窮屈な手順に縛られた開発を変えるぞと、2010年に興した会社である。我々の訪問時点で彼らは既に、光学センサ搭載の3UのCubeSat(衛星名Dove、重量5kg)を、高度約500kmの極軌道に約120機配備し運用していた。
「全地球の光学画像データを常時取得し蓄積する。登録顧客はデータアーカイブから随時データを入手出来る。」「衛星寿命は2~3年。寿命が短いから、随時の改良と最新技術の適用が容易。」「故障率緩和、スマホ等の民生部品使用、清浄度管理軽減、同時多数製作などでコスト削減。」「衛星が故障したら地上の予備衛星をすぐ上げる。衛星1機が故障しても全体への影響は少ない。」「追跡局は全てリース。運用は最大限自動化していて、無人運用もする。」など、フランクに話してくれた。
思い切った発想の転換で自らやれる。仕事が楽しいのは当たり前である。
(補足)2017年2月、88機のDoveをインドのPSLVロケットで同時打上げ。2018年4月時点でDoveは、第19世代まで改良し、打上げ総数約300機(運用停止衛星を含む)。最大解像度3m。

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Spire社の3U衛星製作作業(Spire/NASA)[同社は、サンフランシスコなど世界数都市を拠点に、電波計測機器搭載CubeSatの開発・運用、気象予報・船舶監視等に必要なデータ提供を行う。]

顧客ニーズ、IT技術、専門人材のマッチアップ

Orbital Insight社は、政府・金融・保険・エネルギー・農業など顧客が必要とする事柄の現状・予測情報を、衛星・ドローン・無人機などの画像データを解析して提供する会社である。潜在ニーズも探る。勿論、超小型衛星データも使う。我々チームは、デパートの売上げを駐車台数から推定した事例、石油タンクの蓋の影から備蓄量を推定した事例の説明を受けた。
私の大雑把な解釈では、彼らのビジネスで本質的な要素は、①顧客ニーズの理解とデータ確保、②膨大なデータの高度解析処理システム(クラウドサービス)、③統計解析・機械学習・画像処理の専門人材。私は、このビジネスなら日本でも考え出せたのでは...と思ったのだが、「IT/AI技術が進歩した今日だからこそ可能。米国には、様々な顧客要求(!)があって、クラウド技術・サービスのビッグ3が築く社会基盤があって、人材が集まる。だから真っ先に実現したんだな」と、残念だが納得した。
(補足)2018年9月のSpace News電子版に、Orbital Insight社が、エアバス社と提携した記事、更にAI/画像処理の米国ベンチャー企業を買収した記事が掲載された。

視察チームは、驚きと発見と問題意識の連続の中で、せわしくも充実した二日半を終えた。
続いて私は、国際宇宙会議(第67回IAC)に出席するため、カリフォルニアから次の目的地メキシコのグアダラハラに飛んだ。見慣れたIACの風景、懐かしい各国宇宙関係者の顔。そこで「オールドスペース」のオーラを感じた途端、何故か私は、カリフォルニアの青い空と「ニュースペース」の自由な空気感を懐かしく思い出していた。

元気が出る日本の宇宙開発と利用を目指し、海外で見た宇宙ベンチャーやエコシステムの話題は尽きない。続きはコラム第4回(11-12月予定)以降でご紹介したい。

山浦雄一(やまうら・ゆういち)

元JAXA理事、現三菱電機株式会社宇宙システム事業部顧問 山浦雄一(やまうら・ゆういち)

高校時代に人類初の月面着陸を見て、宇宙開発を志す。1978年4月~2017年3月の39年間、宇宙開発事業団(NASDA)及び宇宙航空研究開発機構(JAXA)に在籍。JAXA最後の4年間(2013年~2017年)は理事として、経営企画、産業振興、国際関係、情報システム、システムズエンジニアリングなどを担当。併せて、最高情報セキュリティ責任者(CISO)。JAXA理事退任後、2017年5月から三菱電機株式会社にて顧問(宇宙事業担当/常勤)。2008年より、筑波大学客員教授。2017年より、技術経営士。

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