連載 「日本宇宙開発史から読むビジネスチャンス」 第2回
進化する宇宙ベンチャー、カリフォルニア発

日本の宇宙開史とともに歩んだからこそ見える、日本の宇宙ビジネスのこれから。元JAXA理事、現三菱電機株式会社宇宙システム事業部顧問、山浦雄一氏によるコラム、第2回。

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記事のポイントを見る
  • 宇宙ベンチャーを理解するために:日本の起業支援策、論説記事、書籍
  • スペースX:ISS計画で掴んだチャンスと常識外れの現場
  • シリコンバレーに根付く投資家、企業家の気風とは?

宇宙ベンチャーは社会の一部

2018年、日本政府・NEDO・JAXAが宇宙ベンチャーの起業支援策(*1)を立ち上げた。(ベンチャーは和製語。海外ではスタートアップが一般的だが、この記事では和製語を使う。)
今や、宇宙ベンチャーの活動が毎日Space News電子版(*2)に載り、一般メディアでも頻繁に取り上げられる時代である。
  (*1)http://www8.cao.go.jp/space/s-net/s-matching/index.html
  (*2)https://spacenews.com/segment/news/

日本経済新聞(2018年5月24日、オピニオン頁)の論説委員記事《宇宙開発「新星」の課題は》は、日本の宇宙ベンチャーに期待しつつ、課題を的確に指摘している。
宇宙ベンチャーを平易に解説した好著に、石田真康著「宇宙ビジネス入門」(2017年、日経BP社)、大貫美鈴著「宇宙ビジネスの衝撃」(2018年、ダイヤモンド社)などがある。
私のコラム第2回では、私が見て感じた世界の宇宙ベンチャーについて私の視点でご紹介する。

スペースXのデビュー戦勝利

今や世界に名を轟かす宇宙企業スペースX。2002年にイーロン・マスクが設立した同社の成功・躍進を、皆さんは予測出来たであろうか。
2006年私は、新参者スペースXがNASAのCOTS(Commercial Orbital Transportation Services)プログラムにおいて、並み居る著名な強豪を相手にNASA契約を勝ち取った現実を目の当たりにし、時代の変化を実感させられた。(*3、*4)
  (*3)https://www.nasa.gov/exploration/news/COTS_selection.html
  (*4)http://www.spacex.com/press/2012/12/19/spacex-wins-nasa-cots-contract-demonstrate-cargo-delivery-space-station

COTSとは、NASAが国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送を、民間宅急便(サービス調達)に切り替えるための技術実証のプログラム。独自開発か自己調達のトラック(ロケットと補給機)でISSへのデモ飛行を成功させた企業は、NASAのISS輸送サービス契約を受注することが出来る。
2005年~2006年のNASA公募は、老舗企業を含む米国20社が応募する大変な激戦。実は、日本は(多分欧州も)米国老舗企業とチームを組み、この一大ビジネスチャンスを取りに行った。
COTSでの私の最初の驚きは、20社が応募したという、米国ビジネス界のチャレンジ精神と層の厚さ・多様さ。そして、それ以上の驚きは、NASAが新興宇宙企業ばかり選定(2社)したこと。
勝つ気で臨んだ米日連合チームも米国老舗企業群も、ことごとく敗れ去った。
宇宙ベンチャーがチャンスを掴んだ舞台は、国際有人計画。アメリカンドリーム?である。

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NASAのCOTSプログラムで勝利したスペースXが定期運行するISSへの物資輸送機ドラゴン(NASA

2014年5月、私は勝者スペースXをロス近郊に訪れた。この時点で彼らは、ファルコン 9ロケットを9機打ち上げ(注:2018年8月末時点で60機)、ドラゴン輸送機によるISSへの物資補給(4回)や、商用静止通信衛星などの軌道投入に成功し、宇宙ビジネスで存在感を高めていた。
同社の姿は、日米欧の老舗宇宙企業を見慣れた私には常識外であった。ロケット機体ぎりぎりを部品運搬車がすり抜け、製造ライン近くに境目無しでカフェテリアがあって、...。1段再使用なんだよ、過保護は要らぬ、を主張する現場であった。カフェテリアはいつでも無料で食べられるお洒落な作り。料理はイーロン・マスクがOKを出した味付け。美味しかった。

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1段再使用を実用化したファルコン9ロケットの着陸(スペースX

シリコンバレーの文化とは

スペースXもジェフ・ベゾスのブルーオリジンもベンチャーの別格である。ここからは、起業し投資家の資金を得て育ち事業を進める、「普通のベンチャー」について述べる。
2016年9月、私はシリコンバレーとサンフランシスコを訪れた。ベンチャーを育て支えるエコシステム(環境、生態系)を理解し、ベンチャーの仕事の仕方・考え方を理解するためである。

まずは、シリコンバレーの全体像とカルチャーを知るため、M社など日本企業を訪ねた。
「投資家は、起業家の失敗経験を評価する。質の高い失敗、失敗の多い人を信用する。」
「起業家、投資家などベンチャーに関わる様々な人々が、昼夜集まって議論し交流する。顔を突き合せて自由に討議を重ねる。起業家はこのような場でレビューを受け、自身を変革する。」
「異業種との協業は必須。ライバル同士が失敗を交換し、互いの失敗を活かす。ライバルは友人(Friend)でも敵(Enemy)でもある。両方足してフレネミー(Frenemy)。フレネミーは大切。」
「シリコンバレーには、日本では口に出せないような、社会貢献を志す高い目標を持つ起業家が多い。それが求められ、また発揮出来るのがシリコンバレーである。」
などなど、これぞ国際標準、ベンチャーの在るべき姿、要諦だと思える貴重な話を伺った。

コラム第2回はここまで。続きの米国ベンチャー実見録、欧州など他地域のベンチャー実見録、各地のエコシステムについては、コラム第3回(10月頃予定)以降でご紹介したい。

山浦雄一(やまうら・ゆういち)

元JAXA理事、現三菱電機株式会社宇宙システム事業部顧問 山浦雄一(やまうら・ゆういち)

高校時代に人類初の月面着陸を見て、宇宙開発を志す。1978年4月~2017年3月の39年間、宇宙開発事業団(NASDA)及び宇宙航空研究開発機構(JAXA)に在籍。JAXA最後の4年間(2013年~2017年)は理事として、経営企画、産業振興、国際関係、情報システム、システムズエンジニアリングなどを担当。併せて、最高情報セキュリティ責任者(CISO)。JAXA理事退任後、2017年5月から三菱電機株式会社にて顧問(宇宙事業担当/常勤)。2008年より、筑波大学客員教授。2017年より、技術経営士。

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