連載 「佐藤龍一 欧州宇宙レポート 2020」 第6回 
イスラエル・イタリア共同商用ハイパースペクトル衛星SHALOM

宇宙ビジネス・政策コンサルタント 佐藤龍一がおくる欧州最新情報

この記事は、約7分で読めます。

地球観測の次のステップとしてハイパースペクトル観測に近年関心が高まっている。

地球観測とは簡単に言うと主に地球の表面から反射される太陽光をカメラで観測し、それを分析する事で観測対象の性質や状態を把握する。光には様々な波長(周波数)がある為、これを数十、または数百もの波長帯に細かく分けて観測することで観測対象をより詳細に渡って識別できるのがハイパースペクトル観測である。

既に欧米では複数のスタートアップが商用サービスとしてのハイパースペクトル衛星コンステレーションの構築を進めており、2020年から徐々に打上が始まる予定だ。民間による取組が進められている中、興味深い一例として政府主体の商用ハイパースペクトル衛星プロジェクトがある。イスラエルとイタリア宇宙機関共同によるSHALOMSpaceborne Hyperspectral Application Land and Ocean Mission、シャローム)である。

SHALOM2010年にイスラエル・イタリアの共同ミッションとして始まり、イスラエル科学技術省とイタリア教育・科学・研究省の支援の下、イスラエル宇宙機関ISAとイタリア宇宙機関ASIが主導して開発を進めている。実際の衛星やペイロードの製造は複数の民間企業が担っており、イタリア側はThales Alenia SpaceTelesprazioSelex Galileo、そしてイスラエル側からはIsraeli Aerospace IndustriesIAI)とElbit Systemsである。

1.png1開発チームの構成 copyright Leonardo - Finmeccanica - Società per azioni 2017

2022年打上予定であり、コストは約2億ドル。これを両国で均等に負担する。SHALOMは宇宙機関ASIが開発したハイパースペクトル衛星PRISMAの後継機というポジションとなっている。

IAIが開発した衛星バスOPSAT-3000を採用しており、基本スペックをいかに示す:

  • 軌道高度:600km(Cosmo-Skymedと同じ軌道)
  • スペクトルバンド数:241バンド
  • スペクトル帯:VNIR/SWIR 400nm~2500nm
  • スペクトル解像度:10nm
  • 空間解像度:2.5m(パンクロマティック)10m(ハイパースペクトル)
  • スワス幅:1km
  • 回帰日数:2日
  • 質量:385kg(バス)、120kg(ペイロード)

SHALOMはハイパースペクトル観測技術を活用した高解像度データを環境監視、災害対応、鉱物探査、水資源監視、高精度農業といった分野別のデジタルマップ製品などを提供することを想定しているが、興味深いのはビジネスニーズを念頭に置いたミッション設計を目的としている点である。

2010年代から行われたフィージビリティスタディではまず市場調査が念入りに行われ、ハイパースペクトル画像へのニーズの現状把握と、商用サービスとしてのポテンシャルの分析に努めた。純粋な学術研究用に衛星を開発してしまい、後から商用ニーズを探しにいくことが多い宇宙業界において画期的なアプローチと言える。

両国が行ったニーズ調査で導き出された結論は以下の通り:

  • ハイパースペクトル画像に対する需要はあり、ユーザーは商用サービスとして画像を購入する意思がある
  • これまでデータとアルゴリズムが不足していた為、利活用が進まなかった。従って利活用分野毎の高付加価値データ製品に関心を示すユーザー多数
  • 続々と台頭してきている競合他社に追い付かれる前にニーズを満たすことができれば市場としてのポテンシャルは高い

上記を踏まえ、以下の様に商用サービスの方針に定めた:

  • ハイパースペクトル画像を活用するポテンシャルがあるのは民間と科学研究関連のユーザー
  • その中でもハイパースペクトル画像で研究科コミュニティを支援していく
  • その為、両国において分野別の高付加価値データ製品の開発に力を入れてゆく

そしてマーケティング戦略を構築し、以下の高付加価値データ製品の販売を検討していく:

  • 作物、放牧地、侵入種マップ
  • 植生状態指標
  • 火災の原因となる物質マップ
  • 沿岸海底地形図
  • 岩相図
  • 土壌表面汚染マップ
  • 森林種マップ
  • 凍土マップ
  • 土地被覆図
  • 積雪深マップ
  • 湿地分類マップ
  • 溶岩と灰の分布図
  • 焼失区域マップ
  • 植生の損傷とストレス指標
  • 鉱物分布マップ
  • 都市・産業地区マップ
  • 溶岩流パラメータ
  • 火山ガスとエアロゾルの排出マップ
  • 森林バイオマスマップ
  • 土壌特性マップ
  • 土地被覆変化検出マップ
  • 森林の窒素とクロロフィル分布図
  • 海洋・水生の品質と生産性の指標
  • 雪と氷の特性評価

2.png

2.データ製品のカテゴリ copyright Leonardo - Finmeccanica - Società per azioni 2017

更にイタリアとイスラエル両国に衛星管制センターとデータ処理施設を設置し、衛星からダウンロードされる画像を処理、そして商用配布を行う。

兼ねてからハイパースペクトルの高いポテンシャルは指摘されてきたが、学術研究の色が強く、なかなか商用利用進まなかったが、SHALOMの市場調査や欧米のスタートアップの出現が表す様に、ニーズは実際にある。こういう実験的な分野においては政府が率先して利活事例を示し、ユーザー層を開拓していく事が重要であると思われる。

佐藤 龍一(さとう りゅういち)

宇宙ビジネス・政策コンサルタント 佐藤 龍一(さとう りゅういち)

豪クィンズランド州大学航空宇宙工学卒業、蘭デルフト工科大学宇宙工学修士課程修了。ドイツの大手宇宙企業OHB Systemsにて、宇宙ミッション設計に関する研究を行い、修了後、ポルトガル気象研究所に衛星データ解析エンジニアとして勤務。衛星ハード面だけではなく、データ面の経験を積む。2016年に日本に帰国、日欧産業協力センターの宇宙専門研究フェロー等歴任、日欧協力についての研究、市場調査、政策分析、ニーズ調査等、欧州の宇宙専門家として産官にビジネス動向や政策分析を提供。宇宙の技術面だけではなく、衛星データ、宇宙政策・国際関係、宇宙ビジネスと、幅広い分野への知見を有する。

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