連載 「佐藤龍一 欧州宇宙レポート 2020」 第7回 
新欧州委員会の発足と防衛産業・宇宙相の就任

宇宙ビジネス・政策コンサルタント 佐藤龍一がおくる欧州最新情報

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12月1日、ドイツ元国防相であるウルズラ・フォン・デア・ライエン新委員長率いる新たな欧州委員会が発足した。10月、欧州委員会の人事案が欧州議会に提出され、複数の委員ポストについて公聴会が行われた後、11月27日に新欧州委員名簿が欧州議会によって承認された。これを受け、欧州理事会は新欧州委員会を正式に任命した。任期は12月1日~2024年10月31日までの4年11カ月で、当初の人事案の一部が欧州議会に否認されたことに伴う混乱で予定よりも1カ月短縮された。

欧州連合(EU)の主要機関の内、行政執行機関である欧州委員会とは日本でいう内閣にあたり、EU加盟国28カ国から1人ずつ、合計28人の委員によって構成されている。この中で委員長は日本の総理大臣にあたり、その他の委員はいわゆる省庁の大臣や長官に近い。欧州委員会は日本の省庁に相当する総局からなっており、各委員は担当分野に応じて総局の担当委員として充てられる。28人の委員に対し、総局の数は現在45である為、1人の委員が複数の総局担当を兼任する事もある。

委員長は欧州理事会によって選ばれ、欧州議会の承認を受けて任命される。その他の委員は任命された次期委員長と各国政府との協議の上で指名され、個々人ではなく全体として欧州議会の承認を得る必要がある。

宇宙業界にとって関心が高い、新たに発足した防衛産業・宇宙総局(Director General for Defence Industry & Space、通称DG Space)の担当委員には仏大手ITコンサル企業ATOSのCEO、ティエリ・ブルトンが就任する。ブルトン氏はシラク大統領時代に財務相を務め、2009年からATOSのCEOに就任していたが、欧州委員会の域内市場・産業・デジタル単一市場担当委員として、域内市場・産業・起業・中小企業総局(DG GROW)と、防衛産業・宇宙総局(DG DEFIS)の2つの総局の担当を兼任することとなった。

就任に伴い、ブルトン氏は欧州産業の未来、「保護・変換・前身」のキーワードの下、自身の意思表明を行った。氏の産業政策の方針は以下の3点である。

1. 気候変動への対応とデジタル社会を促進するための欧州のIndustry 4.0の促進

これからの新たな問題に立ち向かうのには迅速な技術の発展と、それを実現させる投資が必要である。5Gだけでなく、6G、人工知能、クラウド技術、そして将来を見据えて、ポストクラウド時代、エッジコンピューティング、モノのインターネット、サイバーセキュリティ、ブロックチェーンと量子技術の発展を強化し、「情報スペース」、つまりあらゆる側面にまたがるデジタルデータ空間システムを構築していく。

2. 中小企業・新興企業への支援

今後欧州経済を支えるのは中小企業や新興帰郷であり、彼らを保護し、他の大陸の大企業との公正な競争を確保することにより、新しい雇用形態を育成する。そして経済とバリューチェーンの競争力と柔軟性を高めるために、広範囲にわたる産業政策を追求していく。

3. 欧州の人材育成の強化

新技術導入に伴い、欧州市民のスキルアップを支援し、欧州の雇用を守る。

更にEUの宇宙プログラムについては2021-2028年の次期多年度財政枠組みで宇宙に1600億ユーロもの予算を要求していることを述べ、世界第二の宇宙大国として今後もEUの2大プログラムであるGalileoとCopernicusを発展させていくことを強調した。更に宇宙状況把握(Space Situational Awareness、SSA)とEU政府通信衛星プログラムGovSatComをEUの宇宙への新たな取組として挙げた。氏は特に衛星データ利活用の重要性について強調し、量子コンピューティングやAI技術を駆使したデータ分析により、欧州社会に多大な恩恵をもたらし、宇宙におけるEUのリーダーシップを促進していくと述べた。

防衛に関してはブルトン氏は欧州防衛基金を設置し、EU各国が独自に進めている防衛産業に関する活動を統一化し、プールする事の必要性を述べ、これによって欧州の中小企業に利益をもたらすと述べた。

12月には米国も宇宙軍創設を正式に発表したことで、宇宙と防衛という観点では新たなフェーズに入ったと見て間違いないだろう。米国、欧州、ロシア、中国、インド、そして日本において今後両分野は益々関わりを深めていくことが予想される。

佐藤 龍一(さとう りゅういち)

宇宙ビジネス・政策コンサルタント 佐藤 龍一(さとう りゅういち)

豪クィンズランド州大学航空宇宙工学卒業、蘭デルフト工科大学宇宙工学修士課程修了。ドイツの大手宇宙企業OHB Systemsにて、宇宙ミッション設計に関する研究を行い、修了後、ポルトガル気象研究所に衛星データ解析エンジニアとして勤務。衛星ハード面だけではなく、データ面の経験を積む。2016年に日本に帰国、日欧産業協力センターの宇宙専門研究フェロー等歴任、日欧協力についての研究、市場調査、政策分析、ニーズ調査等、欧州の宇宙専門家として産官にビジネス動向や政策分析を提供。宇宙の技術面だけではなく、衛星データ、宇宙政策・国際関係、宇宙ビジネスと、幅広い分野への知見を有する。

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