連載 「佐藤龍一 欧州宇宙レポート 2019」 第3回 
欧州委員会が防衛産業・宇宙総局設立を発表

宇宙ビジネス・政策コンサルタント 佐藤龍一がおくる欧州最新情報

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欧州連合(以下EU)の内閣にあたる行政執行機関、欧州委員会(European Commission、以下EC)は9月、EC内に軍関連の資金調達と開発、配備を担う防衛・宇宙部門、防衛産業・宇宙総局を新たに設立する事を発表した。

EUECの他に欧州議会、欧州理事会、EU理事会の4つの主要機関によって運営されており、EC28人の委員とそれを統括する委員長、そして委員の活動を支える、日本でいえば省庁にあたる総局によって構成されている。各総局は特定の政策分野や業務を担当しており、担当委員の補佐、政策の実施、担当分野に関する法案の準備などを行う。

総局の数はこれまで44であったが、20195月下旬の欧州議会選挙によって欧州委員会の構成員が入れ替わり、ジャン=クロード・ユンカー現委員長からドイツのウルズラ・フォン・デア・ライエン国防相による新体制移行に伴い、新たに防衛産業・宇宙総局(DG for Defence Industry and Space)が設立された。新たに欧州委員として選出された元欧州議会議員で、フランス中央銀行のシルヴィー・グラール副総裁が防衛産業・宇宙総局の担当委員として任命された。

これまでEU2大宇宙プログラムのGalileoCopernicusは域内市場・産業・起業・中小企業総局(DG Internal Market, Industry, Entrepreneurship and SMEs、通称DG GROW、または成長総局)が担当していた。日本でいう経済産業省に近い成長総局が担当していたことからGalileoCopernicusは、純粋な科学による研究開発ではなく、経済効果や雇用創出を目的とした、より産業色の強いOperational Programとして運用されている事は前回のそらこと記事で述べた。従ってCopernicusを構成するSentinel衛星シリーズも量産型衛星として設計されている。

今回の発表により成長総局内でCopernicusを担当していた部署IDirectorate I - Space Policy, Copernicus and Defence)とGalileoを担当していた部署JDirectorate J - EU Satellite Navigation Programmes)は防衛産業・宇宙総局に移動する。

なぜこのタイミングで新総局が設立されたのか?2つの理由が考えられる。

まずEUの宇宙プログラムを管理する組織体制の強化が挙げられる。これまで欧州の宇宙開発といえばフランスやドイツの国毎の宇宙機関に加え、欧州宇宙機関(European Space Agency、以下ESA)が担当してきた。しかしESAEUの傘下機関ではなく、全く別の法的枠組みによって設立された独立研究機関である。EUGalileoCopernicusの開発をESAに委託している事からESAの予算の大多数をEU宇宙プログラムが占めており、EUの宇宙プログラムを管理している機関がEU関連機関でない事に疑問が向けられている。ESAとは別のEUの宇宙機関の設立、またはEUへのESAの併合といった案も検討されており、今回の新総局設立も宇宙分野へのEUの影響力を強める為の一歩であると考えられる。

しかし最大の理由は欧州の集団的防衛へのEUの影響を強める事が狙いであると思われる。兼ねてからEUが軍事同盟になる事はないと言われているが、これまで加盟国それぞれ独自に行っていた武器や戦闘機の調達を新総局の監督の下、EU域内で一本化し、更に欧州防衛基金を設立し、武器の研究開発を行う事でEU加盟国が一体となって武力を保持する事に貢献するものと思われる。更に米国を始め、中国、ロシア、インドが宇宙兵器の開発に着手している中、EUでも宇宙関連で共同の技術開発を進めたい意向も考えられる。欧州の軍事大国の一つであるフランスから担当委員が選出されている事もおそらく関係している。

米国と中国の関係と、欧州に対する自律的防衛、そして宇宙兵器到来の可能性。宇宙開発は元々軍事的要因から始まったが、今後世界の情勢を考える上で、宇宙と軍事利用における新たな潮流の到来ともいえるだろう。

佐藤 龍一(さとう りゅういち)

宇宙ビジネス・政策コンサルタント 佐藤 龍一(さとう りゅういち)

豪クィンズランド州大学航空宇宙工学卒業、蘭デルフト工科大学宇宙工学修士課程修了。ドイツの大手宇宙企業OHB Systemsにて、宇宙ミッション設計に関する研究を行い、修了後、ポルトガル気象研究所に衛星データ解析エンジニアとして勤務。衛星ハード面だけではなく、データ面の経験を積む。2016年に日本に帰国、日欧産業協力センターの宇宙専門研究フェロー等歴任、日欧協力についての研究、市場調査、政策分析、ニーズ調査等、欧州の宇宙専門家として産官にビジネス動向や政策分析を提供。宇宙の技術面だけではなく、衛星データ、宇宙政策・国際関係、宇宙ビジネスと、幅広い分野への知見を有する。

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