連載 「佐藤龍一 欧州宇宙レポート 2019」 第2回 
コペルニクスの将来計画

宇宙ビジネス・政策コンサルタント 佐藤龍一がおくる欧州最新情報

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コペルニクス(Copernicus)とは、欧州連合による地球観測プログラムで、2014年よりSentinelと呼ばれる多数の地球観測衛星で陸域、海域、大気、気候変動、危機管理、安全保障の6つの分野において観測を行い、取得された観測データを完全にオープン&フリーで全世界に提供している。地球観測データをオープン&フリーで提供する事により、環境や気候変動に関する研究活動を支援する他、政府の意思決定や政策課題の解決を支援することを目的としている。

またコペルニクスは、欧州連合の成長総局(日本でいう経済産業省に近い)が管理しており、産業・事業創出に向け、地球観測データを利用して様々なビジネスを行う実用的なプログラムでもある。それにより高速道路や橋など同様に継続的に整備される公共インフラという位置づけになるため、地球観測データのオープン&フリーでの継続的な提供が保証されており、2030年まで段階的に多数のSentinel衛星が配備される事になっている。

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従って研究用途よりむしろ経済効果にフォーカスしており、積極的に新たなデータ事業の創出を奨励している。欧州委員会の委託をコペルニクスの経済効果の分析を行ったコンサル企業PwCの調査報告によるとコペルニクスは2008年から2020年にかけて108億ユーロから135億ユーロ(約1.3兆円から1.6兆円)の経済価値を生み出していると言われている。

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更に特筆すべき点はデータのオープンフリー化により、地球観測データを用いたビッグデータ分析やAIによる様々なスタートアップ企業の創出に貢献している所である。欧州リモートセンシング企業協会(EARSC)の産業調査によると、地球観測データを用いて事業を行っている企業の数は2012年には欧州域内で約300社であったが、コペルニクスが本格的に開始されてから年7.3%で増えており、2016年には510社となった。

この様に様々な経済効果や事業創出への貢献が評価されているコペルニクスだが、コペルニクスを構成するSentinel衛星(Sentinel-1から6まで存在する)に対し、産業界からはもっとビジネスポテンシャルのあるデータを提供してほしいという声が多かった。そこで欧州委員会(EC)は現行機のSentinel-1~6の配備が終了する2030年以降の計画として、Sentinel-7以降となる新世代のSentinel衛星の開発の検討を開始しており、2014年から2017年にかけて第二世代Sentinel衛星(Sentinel Second Generation、S2G)に対するユーザ要求分析の調査を公募した。

調査を受託したスペインのリモセン企業GMVをとりまとめとするコンソーシウムは、450社以上に対するヒヤリングやイベント、ワークショップを開催し、4000以上ものシステム要求を収集した。これらのニーズリストをまとめ、現状の衛星ケーパビリティとのギャップ分析を実施し、結果はECに提出され、その後コペルニクスの技術監督を担う欧州宇宙機関ESAと共同で、S2Gの検討に引き継がれている。

このニーズ調査の結果とEC・ESA間の協議によってコペルニクスの将来ミッション候補として挙げられているのは以下の通りである:

  • マイクロ波放射計

海面温度、海氷濃度といった海氷パラメータ、海面塩分の観測。日本でも同じくAMSR-2と呼ばれるマイクロ波放射計がJAXAの観測衛星「GCOM-W」に搭載されており、現在運用中。

  • L-バンド合成開口レーダー(SAR)

植生を透過し、地表面の観測や地殻変動の観測に適しているLバンドのレーダーで森林管理の支援、地盤沈下と土壌水分の監視、および精密農業と食料安全保障のための作物の種類の判別に使用。更に極地の氷床と氷冠、極地の海氷の広がり、季節的な雪の監視にも貢献。日本でも衛星「だいち」と「だいち2号」にLバンドSARが搭載されていた。

  • ハイパースペクトルセンサ

表面から反射される光をより細分化し観測する事でより詳細に渡って農業や生態系管理を支援。日本でもJ-Spacesystemsが経済産業省の委託を受け開発している高性能ハイパースペクトルセンサHISUIが2019年12月にSpaceXの補給船Dragonで国際宇宙ステーションに搭載される予定。

  • 熱赤外線センサ(Thermal Infra-red、TIR)による地表面温度観測

ユーザーへのニーズ調査で特に必要とされた分野で、地表面温度から測定される蒸発散量により農業の水資源の管理、干ばつの予測、土地劣化、更に火災や火山などの自然災害、沿岸、及び内陸水管理や都市のヒートアイランド問題など様々な分野に適用される。

  • CO2監視

国内および地域規模での化石燃料の燃焼によるCO2の排出量の推定し、排出国の調査、及び政策措置の有効性を評価

  • 極域観測

レーダー高度計とマイクロ波放射計を用い、北極・南極の海氷の厚さ、及び雪の深さを測定し、船舶の運航やその他海洋インフラの運用を支援。

これら将来ミッション、及び現行ミッションは今後どうなっていくのは現在欧州連合の2021~2028年の多年度財政枠組み内の宇宙予算にて議論されている課題であり、今後益々明らかになってくるものと思われる。

佐藤 龍一(さとう りゅういち)

宇宙ビジネス・政策コンサルタント 佐藤 龍一(さとう りゅういち)

豪クィンズランド州大学航空宇宙工学卒業、蘭デルフト工科大学宇宙工学修士課程修了。ドイツの大手宇宙企業OHB Systemsにて、宇宙ミッション設計に関する研究を行い、修了後、ポルトガル気象研究所に衛星データ解析エンジニアとして勤務。衛星ハード面だけではなく、データ面の経験を積む。2016年に日本に帰国、日欧産業協力センターの宇宙専門研究フェロー等歴任、日欧協力についての研究、市場調査、政策分析、ニーズ調査等、欧州の宇宙専門家として産官にビジネス動向や政策分析を提供。宇宙の技術面だけではなく、衛星データ、宇宙政策・国際関係、宇宙ビジネスと、幅広い分野への知見を有する。

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