金属加工で宇宙を目指す
ヤマウチマテックスの挑戦

3Dプリンター技術を使って、宇宙分野に進出を始めた金属加工メーカーがある。話題の宇宙プロジェクトに次々と参画するヤマウチマテックス株式会社だ。

この記事は、約8分で読めます。

記事のポイントを見る
  • 福井県から宇宙ビジネスへ挑戦する企業
  • HAKUTOの後、みんなの宇宙(ソラ)プロジェクトにも参画
  • 新分野で着実に実績を積んでいく

福井県の伝統産業、金属加工

福井県はメガネフレームの生産地として有名だ。アジア製のリーズナブルなメガネが多くの売上をあげる中、高品質な国産メガネとして常に根強い人気を保っている。軽くて丈夫なチタン製メガネを世界に先駆けて開発したのも福井県だ。今では国際的なメガネの産地として地位を築き、イタリアなどのファッション展示市にも多くの企業が出展している。

そのうちの1社が、ヤマウチマテックス株式会社。メガネ用金属材料の加工販売の他、チタンなど非鉄鋼金属や貴金属の製造販売を手掛けている。医療分野、宇宙分野へも進出をはじめたヤマウチマテックス株式会社の代表取締役、山内隆嗣(やまうち りゅうじ)さんに、新たなる挑戦への志を聞いた。

金属加工の新しい形、3Dプリンター

ヤマウチマテックスの主力事業はチタン加工材。チタンは、軽い、融点が高い、熱膨張率が小さい、熱伝導率が小さいなど、軽くて丈夫な特製を持つ金属だ。それゆえ、削るのが難しい材料と言われることもある。同社はその特性を充分に分析し、加工する機械や技術に独自のノウハウを積み上げている。

なかでも特徴的なのは、3Dプリンターでの金属加工だ。電子ビームを採用した3次元積層装置で、3Dチタン合金製品を制作している。金属製の3Dプリンターの導入により今まで困難だった形状の作成や、コストダウンが実現可能になったという。

山内「3D加工では、材料に余分な隙間(巣)ができません。巣ができないメリットで一番大きいのは強度が増ことです。また磨き工程が短縮できるので生産性という点でも効率が上がります」

この3D技術を持って、2016年から日本が注目する大きなプロジェクトに参画した。それが、株式会社ispaceが作るHAKUTOプロジェクトだ。

新規領域の開拓

HAKUTOは、Google Lunar X Prizeでの月面レースに日本で唯一参加したチームだ。月面に着陸し、着陸地点から500m移動したところで高解像度の動画や静止画を地球に送るというレースだ。参加条件は純民間ロボット探査機であること。残念ながら勝者なしで終わってしまったが、このレースが開催されたことで、月面が民間にもぐっと近くなった。

HAKUTOのロボット探査機は「SORATO」とよばれる、全長80センチほどのローバーで、その駆動部分に、ヤマウチマテックスのチタン加工材料が使われている。月の表面はレゴリスという尖った砂に覆われている。その過酷な環境を移動するローバーの一部として、同社の3Dプリンターで作る64チタン合金が採用されたのだ。

宇宙への挑戦はこれが初めてだったというが、なぜ宇宙という市場を選んだのだろうか。

山内「3Dプリンターを導入したことで、金属加工の可能性は広がりました。より細かなニーズに沿ったものを、ひとつひとつ作ることができる。それも高い強度を備えたもの、いわゆる高品質なものです。その時点で医療や宇宙といった、より精度が求められる部分に強みを発揮できると感じました」

次世代への人材育成

新規事業分野の開拓については「コスト面では非常に厳しい部分もあった」と苦笑いをしながら教えてくれた。経営者であればコストは非常にセンシティブな問題であるにも関わらず、挑戦する理由はなぜか。

山内「ワクワクするテーマがあると難しいことでもチャレンジしたくなります。なにをテーマとして与えるかが経営者として大切だと考えています。もともと現場に決定権をもたせた組織づくりはしていて、社員がチームを作って新しいプロジェクトを立ち上げるなど、アイデア出しを積極的に行う風土がありました。その中でも宇宙への挑戦は、社員が非常に積極的で驚きました」

01_IMG_2924.JPG

「経営者は次世代への種まきへの責任がある」とも語る。経営者として「変化すること」に対しての姿勢を示した。

山内「新しいものをとりいれていかないというのは、チャンスを潰すのではなく「リスク」でしかないと考えています。確かに航空宇宙や医療は、絶対に失敗が許されない、高品質が求められる業界ゆえに保守的な面もあると思います。だからこそ、そこにはたくさんの挑戦者がいる。自分が挑戦者になることで、社会にも、そして社員にも新たな価値を提供することが出来ると考えています」

衛星筐体制作と、みんなの宇宙(ソラ)プロジェクトへの参画

ヤマウチマテックスは、2017年夏に米国ユタ州で行われた「Small Satellite Conference(小型衛星カンファレンス)」に参加した。日本からはJAXAやNECなど研究機関や大手メーカー15社が参加する中、小型衛星の筐体制作メーカーとして存在感を見せた。ヤマウチマテックスは衛星の一番外側、箱の部分を3Dプリンターで制作する。

先日、記者会見で注目を集めた「みんなの宇宙(ソラ)プロジェクト」にもヤマウチマテックスは参加し、この3Dプリンターでのエンタメ宇宙TOY『ENJOY ONE』筐体を提供すると発表した。自由度の高い筐体を作ることも、同社の技術を使えば可能になる。
今後、『ENJOY ONE』のデザインは同プロジェクトで「みんソラ サイエンスコミュニケーター」を勤めるタレントの岡田結実(おかだゆい)さんが手掛けるという。

02_IMG_20171115_101712.jpg

従来の宇宙プロダクトの概念を覆す、遊びごころあふれる筐体だ

03_IMG_9083.JPG

みんなのソラ記者会見風景。右から3番目が山内隆嗣さん

山内「宇宙は間違いなく、今後伸びていく市場です。高品質な部品を、現実的な価格感で作っていかなくてはいけない。耐熱性や耐久性に信頼があるチタン合金の技術は、これからもっと必要とされると考えています」

材料メーカーは、エンドユーザーに届くプロダクトやサービスを生むわけではない。そのため私たちにとってはその活躍が見えづらい部分も多い。しかし彼らのような高い技術を持つメーカーがいてこそ、宇宙ビジネスがより身近になっていくのもまた事実だ。

「保守的な自分を壊したかった」と、冗談ぽく笑う山内さん。経営者として現業を守る責任もそこにはある。新規参入として未知の分野である宇宙に挑戦したその一歩は、自ら変化に飛び込む勇気と、今までの技術と実績に裏打ちされた自信があってこそだ。
これからの同社の挑戦に注目したい。

ヤマウチマテックス株式会社(公式サイト)
http://www.matex.co.jp/

月に一度、宇宙開発や宇宙ビジネスに関する
最新ニュースをお届けします。

※宇宙ビジネスコートの無料会員登録フォームへリンクします。

Go to page top