宇宙に一番近いまち、山口県宇部市
衛星データで里山再生を目指す

全国的に問題となっている竹林繁茂の、状況を、衛星データを使って把握し、適切な管理をすることで、地域の里山をよみがえらせようというプロジェクトが、山口県ではじまった。

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  • 日本全国を悩ませる「竹」のメンテナンスに衛星データを利用するプロジェクト
  • 「先進的な宇宙利用モデル実証プロジェクト」に採択された
  • 竹の整備を通じて、里山を蘇らせる計画を進めている

日本を悩ませる竹林問題

初夏の食材、タケノコ。その歯ごたえや独特の苦みに、夏の訪れを感じる食材だ。タケノコは「竹の子」、成長すると竹になる。この竹が今、全国的に猛威を振るい、山間部では駆除の対象となっている。

山口県宇部市も、竹林に悩まされる地域のひとつだ。竹林は主に、山林のメンテナンスを適切に行うことができなかった場所に侵食していく。かつて生活は山とともにあったが、近代化が進んだことで、薪で風呂を焚く、炊事をするということがなくなった。昭和40年代には、箸や食器は、竹や木からプラスティック製品に変わった。加えて高齢化も進み、耕作ができない農地、いわゆる耕作放棄地が増えていった。かつて、子どもが駆け回った野山は、今ではうっそうと竹や木々が茂る、危険な場所になってしまった。

それを再生しようと立ち上げられたのが「里山黄金郷プロジェクト」、正式名称「衛星ビッグデータを活用した里山黄金郷創出プロジェクト~竹林から~」である。
「再生」ではなく「黄金郷」とはどういう意味か。山口県宇部市で進められる関係者に話を伺った。

宇宙に一番近い町 宇部市

山口県は衛星データ利活用と、それを活用した事業創出を、県単位では、全国でいち早く取り組み始めた県だ。
西日本における衛星データの防災利用等に係る拠点として「西日本衛星防災利用研究センター」が、山口県に設置されたのは2017年のことだ。政府機能の地方移転のひとつとして進められた。また、山口大学には「応用リモートセンシング研究センター」が設置され、衛星データ解析に力を入れている。

「西日本衛星防災利用研究センター」が設置されたのを機に、「衛星データ解析技術研究会」を設立した。衛星データを防災、農林、水産、環境分野に応用する技術開発に活用すべく、設置場所である、県産業技術センターが主導する。その中で出たアイデアのひとつが「里山黄金郷プロジェクト」だ。

県産業技術センターの企業支援部 藤本正克(ふじもと まさかつ)さんはこう語る。

藤本「初年度は衛星データ利用の可能性について広めようと講演会やセミナーを開催していました。事業化の実現となると少しハードルが高い。そこで宇宙ビジネスコートに相談したのです」

そうして宇宙ビジネスコートが国の実証事業への公募を提案、見事採択された。

藤本「国の事業に採択されたことで、プロジェクトを実行することができました。衛星データ利用の実践は、まだまだ現場にとってはハードルが高い。データ利用のノウハウをこの事業採択を通して学ぶことができたのは、貴重でした」

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藤本氏(左)が宇宙ビジネスコートの高山久信氏(右)に相談したことでプロジェクトが進んだ

先進的な宇宙利用モデル実証プロジェクト「衛星ビッグデータを活用した里山黄金郷創出プロジェクト~竹林から~」

藤本さんの言う「国の事業」とは、内閣府が行う「先進的な宇宙利用モデル実証プロジェクト」のことだ。昨年8月に公募があり、7件採択された。このプロジェクトへの公募を勧め、プロジェクト構想を再編した宇宙ビジネスコートの高山久信さんはこう語る。

高山「採択されるポイントは、事業モデルが横展開可能なこと。その時、その場所のみで実現するものではなく、他の事業者や他の場所でも実現可能なプロジェクトであることが大切です。竹林の管理、繁茂の抑制は、全国の多くの自治体が抱える悩みです。ここ宇部市をモデルとして、適切な竹林管理のシステムを全国的に実現できればと思います」

衛星データを使った竹林の把握

衛星データ利用と言ってもピンと来ない場合が多い。一般の人にとっては耳慣れない言葉だ。宇部興産コンサルタント株式会社で情報技術を担当する、弘中淳一(ひろなか じゅんいち)さんは「衛星データは万能じゃない」と言い切る。

弘中「今回、衛星データで知りたかったのは広範囲の竹の繁茂状況です。実は竹林のヘクタール数などは、自治体にデータがあります。衛星データで取得したデータと、実際の竹林の状況を付け合わせて「この値が出たら竹林である」というものを導き出すのです」

それならば現地調査のみを行ったほうが良いのではないだろうか。

弘中「確かに、限られた時に限られた場所だけを確認したいのなら、現地に行くだけでいいですね。しかし、竹林の繁茂状況を衛星データで把握することができるようになることで、自治体の竹林状況把握の手間を省くことにもつながります。また、この実証が成功すれば、山口県だけではなく他の場所でも展開が可能です。そのための実証プロジェクトなのです」

「実際、現地に行ってみたら竹ではなく、笹だったということもあります」と、現地調査の大切さを説いた。

弘中「衛星データは万能ではありません。あくまで傾向値がわかるものです。衛星データだけでなにかが劇的に変わることはないのです。まず課題があり、それを解決するための、数ある手段のひとつが衛星データなのです」

このプロジェクトを通して、竹の生育状況の判別が衛星データでできるようになれば、宇部市だけではなく、竹林に悩む全ての自治体に応用できる。そのための第一歩がデータ解析であり、現地調査なのだ。

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フィールドワークの重要性を説く、宇部興産コンサルタント弘中氏

竹を有用な資源に変える、バイオマス燃料

衛星データを用いて、竹林の繁茂を把握した後、竹林管理についてはどのような計画があるのだろうか。実は、竹はバイオマス燃料として活用できる。竹の生育は早い。恐ろしいくらいのスピードで生育するこの悩みの種を、「尽きない資源」とポジティブに捉え、竹をバイオマス燃料に活用しようというのだ。

このプロジェクトを束ねる、宇部興産コンサルタント株式会社代表取締役の堀敬史(ほり ひろふみ)社長は竹について可能性を見出している。

「竹の生育のスピードを生かして、燃料にするというアイデアがあります。ただ伐採するのではなく、それを資源として活用する。その循環こそが里山のあり方なのです。山を再生するために不要なものを作らず、循環させる。エコロジーの考え方ですが、里山のあり方そのものだと考えています」

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かつては生活とともにあった山を取り戻したいという思いがプロジェクトを進めている。宇部興産コンサルタント、堀氏は「次の世代に里山を残したい」と次世代を見つめる。

竹は「竹害」ともいわれ「駆除」という言葉を使われてしまうことも多い。しかしこのプロジェクトに関わる人たちは、あくまで「資源」と捉える。かつては生活の一部として、ともに生きてきた資源なのだ。そこに駆除という考え方はなく、次の使い道を与えることで、共存共栄を目指していく。先日、コーヒーチェーンのスターバックスは、環境汚染に繋がるプラスティックのストローを使うことを取りやめる発表をした。これが竹からできたストローに変わる日も近いのではないか。

光り輝く里山を目指して

黄金郷という言葉を聞いたとき、大仰だという印象を受けた。しかし、害とされているものを資源と捉え、それを有効活用する枠組みまで考慮した里山再生プロジェクトは、黄金郷の名前に相応しい。今後のプロジェクトの展望を堀社長は教えてくれた。

「まずは衛星データをつかった竹林状況の把握を行います。次に竹林を伐採し、森林の再生に繋げます。宇部市は豊かな自然がたくさんあります。イノシシもタケノコを食べて生息している。将来的にはジビエ料理などを提供できる、観光地にしていきたいですね」

「衛星データ解析技術研究会」という技術研究会からはじまったこのプロジェクトは、国の実証事業を通じて里山再生にまで広がった。衛星データの活用は、里山再生における、初期のほんの一部を担ったに過ぎない。弘中さんが言う通り「衛星データは万能じゃない」。しかし衛星データによって、今まである課題を紡ぎ直し、見えていなかった課題が明確になったのも確かだ。

このプロジェクトが成功すれば、他県にもこのモデルが波及する可能性がある。日本を覆う竹林の問題を解決し、住みよい里山を再生する。「宇宙に一番近いまち」宇部市からはじまるこのプロジェクトを応援していきたい。

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