過酷な環境で稼働する
人工衛星を支えるCFRP技術

炭素繊維に樹脂を複合化し、軽くて強い「カーボン繊維強化プラスチック」を開発するスーパーレジン工業株式会社。国内最高峰の設備と技術力を背景に、これまで多くの人工衛星開発に携わってきた同社が目指す方向性とは。

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  • 人工衛星のさまざまな部品の素材として、軽くて強いCFRPが広く活用されている。
  • CFRPの開発・設計・成形・加工で国内をリードする企業がスーパーレジン工業株式会社。
  • 数多くの人工衛星開発に携わり、日本の宇宙ビジネスに大きく貢献してきた。

神奈川県相模原市の緑深い広大な土地に、先端複合材料を用いた成形加工メーカー・スーパーレジン工業株式会社の津久井工場がある。炭素繊維を中心としたFRP(Fiber Reinforced Plastics/繊維強化プラスチック)を加工する高度な技術力を背景に、これまで人工衛星搭載用の機器やアンテナ、太陽電池など数多くの実績を宇宙開発分野で積み重ねてきた。今回は最先端技術が詰まった工場を見学しながら、同社の宇宙開発におけるこれまでの展開や今後のビジョンなどを、取締役の勝山良彦氏、研究開発部部長の梅本知裕氏、営業部副部長の三大寺貴信氏に話を聞いた。

FRPが日本の工業技術を発展させるという先見性

炭素繊維と樹脂を組み合わせて、それぞれの特性を生かすことで単独では得られなかった性能を持たせる「複合材」という技術には、実は非常に古い歴史がある。人類は竪穴住居を建築し、そこに暮らしていた時代から、泥に藁を混ぜ本来の強度を何倍も高める知識を持ち、活用していた。そんなシンプルな発想を「繊維に樹脂を染み込ませて固め、成形する」という加工技術に発展させたのがFRPであり、スーパーレジン工業では今からちょうど60年前の創業時から、それに特化した事業を展開している。

勝山:戦時中、西洋列強国との技術力の差を感じたという創業者は、レジン(樹脂)の活用によりその溝を埋めようと考え、1957年にこの会社を設立しました。ガラス製の繊維にプラスチック樹脂を合わせる「ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)」という技術からスタートし、その後、炭素繊維を樹脂加工する「カーボン繊維強化プラスチック」や耐久性に優れる「アラミド繊維強化プラスチック(AFRP)」などの加工技術で、工業現場におけるお客様のニーズを満たすソリューションを提供してきました。

現在FRPは、宇宙開発をはじめ、航空、自動車・機械産業、医療・エネルギーなど、さまざまな分野で活用され、私たちの生活になくてはならない素材として普及している。「レジンが日本の工業技術を発展させる」という創業者の読みは、ズバリ当たったことになる。

三大寺:私たちは「プリプレグ」と呼ばれる中間材料としてのFRPの開発から、それを使った部品などの設計、手作業による精密な成形や機械加工までを一貫して行うことができます。またこの津久井工場には、樹脂に熱を加え硬化させるための大型釜(オートクレーブ)や、温度・湿度を365日24時間管理し、定期的な清浄度測定も実施しているクリーンルーム、宇宙・航空分野で使われる大型部品も成形できる加工場など、国内でも希少な設備が整っています。加えて、作った製品の精度を測定し、評価する品質管理の面でも優れた設備や高い技術を持っていますので、FRPに関するあらゆるニーズに応えることが可能です。

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勝山氏の説明は明快だ。ソリューションビジネスを誇る同社の強みを体現されていた。

CFRPの優れた特性を活かせる宇宙開発

導入期は、ゴルフシャフト、釣竿などの素材として活用されていたCFRP。しかし1980年代から航空機や人工衛星などの特殊な製品・部品に使われはじめて認知が広がり、現在はさまざまな工業製品へ活用されている。

梅本:CFRPは金属と比較して、優れた特性を持った素材です。まずは軽くて強いという点。同等の体積の鉄と比較して、1/4の比重でありながら強度は10倍で、曲げ・ねじりなどの力に対して歪がみが少ない高剛性です。また高温の熱が加わっても安定した寸法を保ち、錆ない耐食性もあります。さらには電気伝導性、電磁波遮断特性、X線透過性にも優れております。宇宙空間の過酷な環境でも安定した作業が望まれる人工衛星を構成する素材として申し分ない性質を持っているのです。

勝山:人工衛星に使われる太陽電池のサブストレートと呼ばれるパネルがあるのですが、私たちはその製造において世界トップレベルの技術力を誇ると自負しています。もちろんこれにとどまらず、光学センサーやラジエータパネル、構造用パネルなどの製造に関わってきました。これまで1992年に打ち上げられた磁気圏尾部観測衛星GEOTAILを皮切りに、MUSES-C, ASTRO-E2, きく8号、かぐや、WINDS, EarthCARE, HISUI, ASNAROなど、数多くの人工衛星の開発・製造に携わり、日本の宇宙開発に貢献してきました。「宇宙開発」という分野は、非常に繊細で高度な技術が要求される仕事ばかりですので、私たちの強みを活かせるフィールドだと思っています。

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日本に数台しかない巨大なオートクレーブ。同社の技術力を支える高度な設備だ。

自分たちならではの提案ができる企業に

60年の歴史と、それを築いてきた人材一人ひとりの"ものづくり"にかける熱い情熱を、日本の宇宙開発の中で存在感を放つ原動力としてきた同社。このフィールドでのこれまでの実績について、どう捉えているのか。

勝山:私たちはお客様からのニーズに応えて素材を開発したり、それを高精度で成形、組み立てをする立ち位置の会社ですから、いわゆる「スーパーレジン工業製」というオリジナルの人工衛星はありません。これまでの技術やアイデアの一つひとつが私たちの代表作になっています。
今後はその強みを活かし、お客様が望むことを先読みして、期待以上のソリューションを提案する能力を強めていきたいと考えています。私たちにはこれまで宇宙ビジネスの中で培った知識と実績をもとに、お客様の要求を別の角度から捉えて、期待以上のものとして提供するノウハウがあります。技術力に提案力を加えた新しい武器を強化していこうと思います。

これからも宇宙ビジネス界で輝き続ける存在であり続けるためには、それを支える人材の育成も一つのポイントになってくる。

勝山:宇宙関連の案件は、確かにコンスタントに入ってくるものではありませんが、その時々で厳しい要求があり、携わるスタッフを鍛えてくれるチャレンジングな仕事です。それが会社全体としてのレベルアップにもつながりますし、いつ依頼が来ても高いレベルで応えるという気構えを養ってくれる。そういう意味では、人材育成でも大切な分野だと考えています。

梅本:これからは「ものづくり」の企業イメージから、研究開発分野に長けた企業へと変革を図っていきたい。それにはすでにある程度の知識と経験をもった即戦力も必要になるでしょう。大学などとの共同開発事業を通して、優秀な人材の発掘も活発に行っていければと考えています。

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相模原の豊かな自然の中で生み出される高度な技術力が日本の宇宙ビジネスを支えている。

宇宙という過酷な環境の中で、繊細で安定的な活動が要求される人工衛星。その安定的な運用を支える確かな技術を提供する存在として、これまで同社が果たしてきた役割は、このビジネスに携わる誰もが認めるところである。インタビュー中「お客様から依頼を受けた内容を忠実に形にして提供することも大切だが、今後はその依頼の裏側にある意図を感じ取り、私たちにしかできないワンランク上の解決方法として提案することができる会社にしていきたい」と勝山氏は何度も繰り返した。新しいテーマを持って、さらに高みを目指す企業姿勢。これこそ常に新たなチャレンジと向き合う宇宙ビジネス全体に求められるマインドなのかもしれない。

そらこと編集部

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