宇宙開発・技術の知見を共有
課題解決支援を行う新法人誕生

一般社団法人宇宙利用新領域開拓機構、通称「Space Edge Lab.(スペース・エッジ・ラボ)」の代表理事の福代孝良さんに、設立の経緯とこれから目指すものについて聞いた。

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  • 宇宙業界は専門性の深化が進む一方で知見の共有が進まない傾向
  • 宇宙開発から宇宙利用へシフトした現代では、多分野における知見の共有が重要
  • 知見の共有を行う仕組みを作り、新しい宇宙利用・ビジネスの創造を加速する

オンラインで宇宙を学ぶ、World Space School

宇宙ビジネスが盛り上がりを見せつつある。しかし、基礎となる宇宙の知識を体系的に学ぶ場所がないのもまた事実だ。宇宙の基礎について高校物理レベルから、もう一歩踏み込んだ知識の提供を目指すのが、World Space School(略称:WSS)である。WSSの制作は東京大学がパートナーとなっており、講義の登壇者も山崎直子氏や中須賀真一教授という、宇宙を学ぶ者にとってはそうそうたる顔ぶれだ。

「多くの人が宇宙ビジネスや課題解決への宇宙の利用について興味を持っています。しかし、そういう人たちに宇宙の基本的な知識をシステマティックに教えるツールがない。そこでこのWSSを企画しました。長く宇宙業界にいる人たちの「あたりまえ」の知識を、新規参入者が容易に理解できるようになれば、ビジネス参入のハードルも低くなります。」

宇宙利用時代の新しい課題は、知見の共有

そもそもなぜ、知識を共有するプラットフォームをつくろうと考えたのか。その理由について聞くと、福代さんの過去の経験にヒントがあった。

福代さんの宇宙データとの出会いは、アマゾン熱帯雨林での研究だった。大学生のころ森林資源調査のため、当時まだ一般的ではなかったGPSを持って現地調査を行ったのが始まりだ。
その後、独立行政法人国際協力機構(JICA)や国際機関などで主に途上国の自然環境に関するプロジェクトに携わったのち、外務省に入省。内閣府宇宙戦略室(当時。現、内閣府宇宙開発戦略推進事務局)に出向。現在は退職し、東京大学空間情報科学研究センターにて研究を行っている。

宇宙分野は、専門領域が非常に深い。物事を狭く深く探究していく異分野の専門家同士が、同じ場所で議論しあうことはまれだ。そのため分野を超えた共有が進んでいない。途上国における利用の現場、国際協力や外交の最前線で長く活動してきた経験から、福代さんはそれを問題だと感じていた。

「宇宙技術の開発は先進国の研究室で行われています。しかし、宇宙技術の多くは、地上インフラ整備が未発達の途上国や海洋地域でこそ役立つもが多い。一方で多くの宇宙開発関係者にはフィールドの最前線のニーズやリアリティが届いていません。地上インフラの整った大都会で利用ユーザーを探していることに違和感がありました。宇宙技術でできる限界を知った上で、あとは地上インフラやソフト的なことで解決できることもたくさんあります。そういう情報が集積するのは中央ではなく、最前線の現場です。」

現場の利用と開発関係者、多分野の知見を統合するための組織が必要であると考え、「スペース・エッジ・ラボ」を立ち上げ、WSSを企画している。福代さんによると、まずアフリカのルワンダで立ち上げる予定であり、まさに世界中で受けることが出来る講座だ。

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これからの構想について、ときおり世界地図を示しながら話す福代さん。その活動に国境はない。

宇宙利用の時代に即した国際ジャーナルの展開

「長い間、宇宙開発は研究開発そのものが目的でした。しかし、宇宙技術は我々の社会をよりよくする実利用の手段となりはじめています。新たなソリューション、ビジネスやイノベーションを興すとなると、知見共有のプラットフォームが必要だと考えました。そのための自主的な勉強会を宇宙開発の第一人者である中須賀真一教授、利用分野の第一人者である柴崎亮介教授と立ち上げてきましたが、それをより具体化させます。」

コンテンツとしては、まず新規参入者向けには広範な知識をシステマティックに教えるオンラインスクールであるWSS。そして専門家向けには国際学術誌の構想をしている。

「私は森林科学専攻の出身ですが、森林分野には日本森林学会というのがあります。学術的には政策学から、水文学、利用工学等、様々な専門分野に細分化されます。しかし、森林といったフィールドの科学となっています。林学や農学というグループは実学としてこのような領域が形成されてきました。宇宙利用も、森林のような実利用の現場になってきています。その観点から研究開発中心から実学としての専門家の知の共有が必要であると考えています」

今後、スペース・エッジ・ラボが事務局を担い、中須賀教授や柴崎教授をはじめとした開発と利用の国際的な専門家と連携し、宇宙の実利用についての議論の場を作るという。発行までに半年以上かかる冊子型の学術誌ではなく、オンライン公開にすることでより議論を活性化させたい考えだ。

宇宙業界でエッジの立った存在へ 

オンラインスクール、ジャーナルの発行など、知見の統合を進めるスペース・エッジ・ラボだが、事業の柱としてはもうひとつある。発展途上地域におけるとの宇宙利活用・ビジネスの推進だ。
ひとつの衛星でひとつの国だけの課題を解決するのではなく、これからは衛星の共同利用などで国境を越えた課題を解決できると福代さんは言う。そしてそれには柔軟な体制での人材育成が必要だともいう。

誰もが宇宙データに触れられる時代になったからこそ立ち上がったSpace Edge Lab.(スペース・エッジ・ラボ)、正式名称、一般社団法人宇宙利用新領域開拓機構。その社名の由来を聞いた。

「宇宙分野でいうとEdge(最先端)というと深宇宙探査や火星移住等思い浮かべる方が多いかもしれません。私は、それだけでなく、最先端の宇宙利用の知識や経験をつなげながら、新たな利用領域を開拓し、この地球を持続可能にするためとんがった(エッジが立った)仕事を創っていく。それがスペース・エッジ・ラボです」

宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-Booster 2017」の出場について

ところで、福代さんは、2017年10月30日に行われた、内閣府主催の宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-Booster 2017」に出場した。ファイナリスト15組のうちの3組のチームに深く関わり、うち1件で受賞するという快挙を遂げた。2回目の発表での登場時には、会場から和やかな笑いが出るほどだった。なぜこのようにたくさんのアイデアが出てくるのだろうか。

「今回の受賞のアイデアについては、このスペース・エッジ・ラボの準備段階での色々な方々との勉強会で議論してきた内容が詰まっています。私一人のアイデアというより、これまで議論させていただいたみんなのものであり、さらにその技術を培ってきた人々のおかげです。この場で感謝したいです。
私は、さまざまな可能性を形にしたい、誰も形にしないのはもったいないと思い、それを推進するために退職し、今の事業を始めました。」

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審査員特別賞を受賞する福代さんのチーム「さざ波」。(C)内閣府

いまもまだまだたくさんアイデアがあると言う福代さんに、来年も出場するかどうかをきいてみた。「提案書の書き方について私でよければお教えします」と、多くの応募者の中から勝ち抜いてきた福代さんは笑う。

「単なるアイデアコンテストというなら、アイデアがある限り出ることもあるかもしれません。ただ、S-Boosterはアイデアの実現、事業化を重視しています。私は今年提案した内容を実現していきたいので、来年も出るということはあまり考えていません。今後は、このスペース・エッジ・ラボでの活動や大学での産学連携を通じて、ぜひ、宇宙で事業を進めたい、課題解決を進めたいという人や事業者たちとの連携をはかり、たくさんのアイデアが事業化されて行くよう取り組んでみたいと思います。」

今年は、日本各地のみならず、インドネシア、ルワンダ、ブラジル、エジプト、ニュージーランド、タイ、UAE等色々な国で宇宙利用について議論しているという。

「まだまだいろんなニーズ、ビジネスアイデアやソリューションが開拓されており、既に色々と思いついています。ぜひ何らかの形でこれらのアイデアを実現できるよう、大学やこのラボを通じて色々な人を巻き込んでいきたいですね」

インタビューの間中、楽しそうに語る姿がとても印象的だった。スペース・エッジ・ラボのこれからの活躍に期待したい。

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