九州から世界の宇宙ビジネスにインパクト

2019年、九州大学発ベンチャーが世界初の軽量・高分解能小型SAR衛星の打ち上げを目指す。

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  • 九州の地が宇宙を身近にする起爆剤になる。
  • 大学発の民間ベンチャーが世界初の軽量・高分解能小型SAR衛星を実現する。
  • シニアと若手のコラボで世界を目指す。

2017年11月6日、九州大学発の衛星開発ベンチャー、株式会社QPS研究所が、産業革新機構など9社から総額23億5000万円を調達したと発表した。九州のベンチャーのシリーズA調達額としては過去最高という。「九州の地に宇宙産業を根付かせる」をモットーに、将来的には小型SAR衛星を36機体制として「準リアルタイムによる衛星画像」の提供を目指している同社代表取締役社長、大西俊輔 (おおにししゅんすけ)氏と最高執行責任者、市來敏光(いちきとしみつ)氏に話を聞いた。

地方活性を目的に設立されたQPS研究所

QPS研究所は、2005年に九州大学での小型衛星開発の技術伝承と九州域の地場企業に宇宙産業を根付かせることを目的に、八坂哲雄(やさかてつお)教授他、航空宇宙に精通した専門家を中心に設立された。設立当初から実用的な50kg級小型衛星の開発に取り組み、九州大学を中心とした九州地区の大学・企業による50kg級小型衛星プロジェクト(QSAT-EOS)の成功にも貢献した。

八坂氏は、九州大学、大学院教授、そして大学宇宙工学コンソーシアム(University Space Engineering Consortium, UNISEC)初代理事長などを歴任し、数多くの特許を持つ宇宙技術のスペシャリスト。その八坂氏とともにプロジェクトを進めるのは、若き社長であり、工学博士の大西氏だ。九州域を盛り上げ、世界と新たな未来を見据えて小型SAR衛星の開発に采配を振る。そしてM.B.Aを取得し、投資家、経営者の経験をもつ市來氏が、宇宙とは無縁の分野から参画し、経営面から世界初のプロジェクト成功に向けて奔走している。

大西「私は、九州大学でQSAT-EOSプロジェクトに携わっていました。そのプロジェクトが終わると、せっかく築いた大学と地場企業の良い土壌がなくなるのではないかと考え、QPS研究所を創業した3名に、私を入社させていただけるよう説得を行いました。そして2013年10月の大学卒業に合わせ、QPS研究所に入社、試用期間を経て2014年4月に社長に就任しました。そこからある意味、創業者3名と私というチームができたのです。先輩方のつながりもあり、いろんなプロジェクトの仕事はいただいていましたが、最終的な目的は、九州域を宇宙産業で盛り上げたいということであり、人を呼び寄せるには、魅力的な新しいプロジェクトが必要ではないかと考えて構想したのが小型SAR衛星です。しかし、小型SAR衛星は、あくまで事業の第一歩です。九州の地に宇宙産業を根付かせ、活性化したいと考えています。」

市來「九州大学では、50㎏級の実用的な人工衛星の研究開発を1995年から行っています。ただ、学生が卒業してしまうと、せっかく学んだ知見も地元に残らない可能性があります。QPS研究所設立の背景には、宇宙プロジェクトを地場の企業を巻き込んで行えば、研究開発のノウハウが地場企業に溜まり、大学も技術伝承ができ、宇宙産業も根付いていくことになるということがありました。これまで九州域の地場企業200社以上に声をかけ、九州北部だけでも約20社がまとまった体制になっています。」

現在、小型SAR衛星開発には、福岡の中小企業12~13社が携わっており、人工衛星の国産率は、実に9割に及ぶとのことである。若いリーダーの発言には、地場に宇宙産業を根付かせ、世界を目指すという熱い思いがあふれている。

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左から、最高執行責任者 市來敏光氏、研究所長 八坂哲雄氏、代表取締役社長 大西俊輔氏。ベテランと若手というチームが宇宙ビジネスの活性化を目指す。

民間ベンチャーが実現する世界初の軽量・高分解能小型SAR衛星

地球観測衛星からの観測データは、気候変動の把握、地球規模課題の解決や自然災害発生時の緊急対応等、私たちの快適で安全な社会生活の実現に大きく貢献している。最近の地球観測データは、画像の鮮明さ・精緻さに加えて、よりリアルタイムでの情報提供という画像提供時間の短さを向上させる動きが活発になっている。そのため昼夜を問わず、天候に関係なく観ることのできる観測衛星システムの整備が待ち望まれている。これを実現するのが、SARである。今、このSARを搭載した実用観測衛星システムの整備が世界的な競争となっている。

SARの正式名称は、Synthetic Aperture Radar(合成開口レーダ)。可視光ではなくマイクロ波を用いた観測センサーで、雲や噴煙を透過し、昼夜を問わずに観測することができる点に特長がある。

大西「観測衛星の分野で、後発である我々が光学衛星をやっても何の意味もありません。光学衛星は海外の企業に先行されています。しかし、小型SAR衛星はプレーヤーも少なく、未実現のぽっかり空いた領域でしたので、世界初となる実用小型SAR衛星をやろうと考えました。」

市來「私がベンチャー投資家として2015年に大西に出会った際に最初に説明されたのは、観測衛星には、光学系と電波系であるSARがあり、衛星には大型と小型があるということです。既に光学衛星は大型から小型衛星にシフトしており、今は大型しかないSAR衛星も小型化が実現できれば一気にシフトするだろうというのを聞いた時、SARのもつ大きな可能性と合わせて小型SAR衛星をやるべきだと思いました。また、海外の動向を考えた時に、2020年までに打ち上げないと負けてしまうと思いもありました。」

現在QPS研究所は、同社が特許をもつパラボラ形アンテナを使ったSARを搭載して、衛星重量が100kg以下、観測データの分解能1m、しかもコストは、 従来の数百億円する大型観測衛星の1/100という軽量・高精度・低価格の小型SAR衛星を2019年に打上げるとして開発を進めている。これまでSARは大きなアンテナと多量の電力を消費するため、小型化にはむいていない技術とされていた。

市來「今回の資金調達を実現するにあたり、投資家様に高くご評価いただいた点が3つあると思います。まず、八坂や大西をはじめとするQPS研究所が持つ技術力の高さ。二つめは、独自開発のパラボラ形アンテナを使った小型SAR衛星の実現性、三つめは、地場企業の方々の製造技術力と熱意です。これらの総合力と数々の実績を踏まえた現実的な計画が認められて、今回の投資に至っていると思います。」

大西「大型観測衛星と我々の小型衛星では、役割が違います。それぞれ違う観測領域を狙っているので、既存の大型衛星のサービスとは棲み分けはできると思っています。2019年に世界初の小型SAR衛星を実現させて、10年以内には、軌道上で36機体制の確立を目指したいと考えています。」

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直径3.6m、重量15kgの大型、超軽量展開型パラボラアンテナ。この100kg級の小型衛星用最大アンテナが投資家からも注目を集めている。

相手は世界、シニアと若手のコラボで世界を目指す。

QPS研究所の実用小型SAR衛星システムが実現すれば、世界のほぼどこでも好きなところを約10分程度で観測可能となり、インフラ管理、農業、海洋・漁業等の効率化、災害管理や渋滞予測などへの活用を見込まれる。究極的には、ほぼリアルタイムに更新されるグーグルマップのような世界も実現できる可能性も期待できる。九州の地場産業と大学が一体となったチーム力と高い技術力がこれを実現しようとしている。現在、QPS研究所は、従業員数8名。会社の最年少が社長。その社長を、ビジネス・投資分野のエキスパートと、世界トップレベルの知識と経験を持つ八坂氏らのシニア人材で支え、それらがうまく融合して高い技術力と機動力を発揮している。

市來「私たちは、このシステムをたくさんの人々がストレスフリーで便利に使えるようにしていきたい。そうならなければ社会実装も宇宙を身近にすることも実現できないと思っています。一方で、我々が貯めたデータを処理して、サービスに繋げていただく"アプリケーションデベロッパー"が日本には圧倒的に不足しており、その人材育成も必要と考えています。これから宇宙をもっともっと身近なものにすることで、宇宙って投資するには「不確実だよね」、「リスクあるよね」という概念を変えたいと考えています。」

大西「私たちは、この開発を通して九州の地に宇宙産業が根付くことが、一番意味のあることだと思っています。そして、地場企業と大学というコミュニティを大事にして、目指すのは、世界市場です。私たちQPS研究所は、SAR衛星に限らず、常に新しいものをどんどん生み出し、地域を活性化し、宇宙業界を活性化していく起爆剤になりたいと考えています。」

「小型SAR衛星はあくまでも第一歩、相手は世界」と言う、若いリーダーが率いるQPS研究所。その傍には「私たちが、若手の発想力と機動力を活用しているんだ」と闊達に笑う、創業者の八坂氏の姿がある。世界に先駆けて小型SAR衛星を成功させ、宇宙産業を活性化する熱い思いに溢れたQPS研究所。若手とシニアで作り上げるその成果に、これからも注目したい。

株式会社QPS研究所(公式サイト)
https://i-qps.net/

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