NASAの研究員小野 雅裕さんに聞く 「アメリカの宇宙ビジネス強さの秘訣」と「これからの宇宙ビジネス」

「『宇宙に命はあるのか』 人類が旅した一千億分の八」の著者であり、NASAジェット推進研究所(JPL)の研究員でもある小野雅裕さんに日米の宇宙ビジネスの違いと、これから始めるべき宇宙ビジネスについて伺った。

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  • 政府の培った宇宙技術やインフラを使って、民間による宇宙開発がスタートした
  • ロケット打上げ産業が成熟した後、さまざまな産業が宇宙に広がっていく
  • アイデアとデータを組み合わせることで、新しいビジネスが生まれる

先月、都内で開催された「第2回宇宙探査フォーラム(ISEF2)」でも産業界向けのサイドイベント「I-ISEF」が開催されるなど、世界各国で、宇宙探査における民間企業の参入が注目を集めている。

今や飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けている、アメリカ宇宙ビジネス界の雄SpaceX。 その躍進の火付け役であり、現在も成長を支え続けているのが、世界一の宇宙開発予算を有し、宇宙開発で世界最先端を行くアメリカ航空宇宙局(NASAだ。

そのNASAの中核機関であるジェット推進研究所(JPLで、研究員として働く小野 雅裕さんに「アメリカの宇宙ビジネス隆盛の理由」と、「これからビジネスチャンスの広がりが予想される分野」について伺った。

政府の作った宇宙インフラを民間企業に移譲する

小野さんは、SpaceXが躍進した理由のひとつを「NASAから約2000億円の投資があり、人員を集めることができたから」と分析する。

ロケット打上げは、数十年前から技術的な最適解が出ており、安全な打上げのために必要とされる工程が決まっている、いわゆる「枯れた技術」だ。 工程が決まっている製品を量産する場合、開発コストは人員と資金の掛け算でほぼ決まるという。

極端な言い方をすれば、10年間で、毎年「100億円」の資金と「100人」の人員で製造できるロケットの数は、「1000億円」と「1000人」で1年間で作り上げる数と同数であるということだ。 NASAは、技術が確立している低軌道(高度400kmまで)の打上げを民間に移譲するという決断をし、SpaceXに技術の公開、資金の提供をしたのだ。

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SpaceXは、NASAから技術と資金の提供を受けたことにより、世界屈指のロケット製造メーカーに成長した (C)SpaceX

その結果、NASAは打上げコストを削減することに成功し、月や火星探査などに研究資源を多く割くことができるようになった。

この取り組みが、アメリカの宇宙開発の競争力をさらに高めることに繋がったのである。

また、SpaceXにとっても資金とビジネスチャンスを得たことにより、後発のロケット製造会社にも関わらず、僅か数年で世界的に競争力をもつ企業に成長を遂げた。
アメリカには、このように政府が保有するインフラや資金を民間に提供し、ベンチャー企業の成長をサポートするという土壌がある。 この土壌が、アメリカの宇宙産業の強さを支えているのだ。

ロケット打上げ以降、広がるビジネスチャンス

世界の宇宙業界において、輸送業(ロケットの打上げなど)の「SpaceX」や「Blue Origin」などが注目を集めている。

輸送業は、宇宙というフィールドでビジネスを行う際、必ず経由する「入り口」としての役割を担っている。そのため、最初にロケットなどが注目を集めるのは、ある意味当然といえる。

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ロケットなどの輸送業は、宇宙への「入り口」として必要なため、現在注目を集めている(C)Blue Origin

しかし、今後は「地上で行われているさまざまなサービスが、宇宙でも広がっていく」と小野さんは予想する。

宇宙インフラの構築には、長期的な視点が必要

宇宙インフラが構築されることで、人類は多くのメリットを享受することになる。

しかし、インフラの構築には膨大な費用と時間が掛かる。
小野さんは、「最近は、ITを駆使してスピード感をもってビジネスを拡大するベンチャー企業が注目されているが、宇宙インフラの領域ではその法則は適用されない」という。

小野「地上でここまでのインフラが整うまでには、1億年という時間が必要でした。宇宙でインフラを作っていくにはそれと同じように、ある程度長い時間で見ていかなくてはいけません。」と開発にスピードを求めすぎることに警鐘を鳴らし、長期スパンで宇宙インフラの構築を考えていく必要があると強調した。

IMG_0149.jpg宇宙でインフラを作るには、長期的な視点が大切だと語る小野さん

一方で、既に構築されている宇宙インフラを活用することには、期待を寄せているという。

小野「スペインのサグラダファミリアは、100年以上の間、絶えず寄付が集まり、建設が続けられている。宇宙インフラについても、それと同じように長い目で投資され続ける状況になってほしいですね。」

今ある宇宙インフラを使って、ビジネスを始める

小野「人工衛星のデータを使ったビジネスは、アイデア次第でビジネスが広がっていくため、非常に面白いと思います」

ロケットの打上げのように、既に技術が確立されていて、かつ膨大な費用が掛かるものについては、多くの資金と人的資源を有する大企業に分がある。

しかし、衛星データとアイデアをかけ合わせてサービスを提供するようなビジネスの場合、アイデア次第でさまざまな広がりがあり、ベンチャー企業にも参入しやすい分野であると説明した。最近でも、「ポケモンGO(Niantic)のように、GPSという既存の技術にポケモンというコンテンツを結び付けたサービスが一世を風靡したことは記憶に新しい。

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衛星データの利用がこれからの宇宙ビジネスのカギを握る(C)一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構

小野「もっと多くの人に、さまざまなアイデアを出し、ビジネスを行ってほしいですね」

研究機関によって構築された宇宙インフラのスピンアウト(民間への転用)が促進されるほど、宇宙開発の意義が高まり、研究が進めやすくなる。

そして研究が進むほど、さらに新しい技術やインフラが生まれ、民間へフィードバックの影響が大きなものになるという好循環が作られるのだ。現在活用できる宇宙インフラ「衛星データ」と「アイデア」を結び付け、新たなサービスを作り出していくことが、民間企業に与えられた大きなチャンスであると言えそうだ。

イマジネーションのその先にあるもの

小野さんもNASAのエンジニアとして、開発を仕事としているが、心は常にサイエンスにあると言う。
「我々はどこから来て、どこへ行くのか?」
その問いに対する答えを見つけるため、答えに近づくため、日々、開発に勤しんでいる。

小野「一番伝えたいことはイマジネーションの大切さです。」

宇宙開発のみならず、あらゆる科学技術は、方程式を解いたり、望遠鏡や顕微鏡をのぞいたり、図面を引いたり、プログラムを書けばいいというわけではない。
それらは「車の部品のようなものだ」と小野さんはいう。
この先に進みたいという意思こそが、車を先に進めるのだ。その意思の正体が「イマジネーション」である。

小野「『イマジネーション』を広げるために、日常生活の中で想像力を働かせてほしい」

"夜空を見上げてほしい。きっとそこに輝いているはずだ。大昔から人のイマジネーションの源となり続けた、淡くまたたく星屑が。毎日形を変える銀色の月が。星々の世界に遊ぶ惑星たちが"
"想像してみよう。その美しい星空に、淡い天の川の流れの中に、一千億の世界があることを"
"
想像してみよう。その多くの世界には、雲が浮かび、雨が降り、川が流れ海に注いでいることを"
"
想像してみよう。その世界に生える不思議なカタチの植物や地を闊歩する異形の獣のことを"
"
想像してみよう、彼らが我々と同じように、その星空を見上げ、想像に耽っている姿を"
"想像してみよう。彼らが何を想像しているかを"

小野 雅裕『宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八』(SB新書、2018年

イマジネーションを広げ、さまざまなアイデアをカタチにしていくこと。それが新しい宇宙ビジネスを生み出すことに繋がっていくのかもしれない。

宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八 

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