羽ばたけ未来の航空宇宙エンジニア。
人材育成の現場をレポート。

産業界からの信頼を得続ける、東京都立産業技術高等専門学校。航空宇宙工学コースを設けている荒川キャンパスにて未来のエンジニアを育む環境について聞いた。

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  • 工学系人材の育成の場として、東京都立産業技術高等専門学校では、航空宇宙工学コースを含む8つのコースが設けられている。
  • 卒業生の就職率は、毎年ほぼ100%。バランス感覚に優れた人材の輩出が続けられている。
  • 今後はさらに拡大する宇宙ビジネスの人材ニーズにも対応できる教育体制の構築を目指す。

「ものづくりのスペシャリスト」育成の場として、1962年4月に東京都が開校した東京都立工業高等専門学校と東京都立航空工業高等専門学校。2006年に両校が統合され、東京都立産業技術高等専門学校として生まれ変わった今も、多くのエンジニアがここから羽ばたき、我が国の産業界を支えるべく奮闘している。今回は旧航空工業高等専門学校の伝統を受け継ぎ、航空宇宙工学コースを設けている荒川キャンパスにて、カリキュラムの特徴や学生の志向、さらには今後目指す方向性などを、現場で指導にあたる2人の准教授に話を聞いた。

就職率ほぼ100%。産業界からの信頼を得続ける教育

開校以来50年以上に渡り、産業界からのニーズに応え、有能で実践的な技術者の育成に取り組む東京都立産業技術高等専門学校。中学校卒業から5年間を過ごす「本科(ものづくり工学科)」では、現在1学年320名・計1,600名の学生が熱心に学んでいる。品川・荒川の各キャンパスにそれぞれ4つのコースが設けられており、自分の希望や適性にあった知識の吸収ができる環境が整備されている。

石川:1年生は数学、物理、製図など全コースで必須となる基礎の授業を受けます。2年生から自分が選択したコースでの専門的な勉強へと移り、4年間じっくりと学んでいくことになります。その後さらに2年間、より高度な専門知識や技術を学ぶ専攻科が、1学年32人という少人数体制で設けられています。
15、16歳からの最長7年間という、若く、吸収力の高い時期に、自分がもっとも興味を持つ分野を専門的に学ぶことは有意義であり、将来工学系の世界で働きたいと思う人が効率的に知識を身につける道であるといえます。

中野:この学校では、実戦ですぐに役に立つベーシックな知識と経験を身につけさせることが大切だと教員側は認識しています。実務により近い部分でアカデミックな経験を積ませること。それが高等専門学校の立ち位置であると考えています。

その教育の成果の指標となる卒業後の就職内定率は、毎年ほぼ100%。一人あたり、約12社からの求人があるという。

石川:この数字は、リーマンショック後の就職氷河期と呼ばれる時期においても低下することはありませんでした。専攻科の卒業生については、さらに倍の数の企業から求人が寄せられます。ここで学び、巣立っていく学生がいかに評価され、信頼を得ているかを示している実績だと思います。

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教室案内だけでも授業内容の専門性の高さが伺える

バランス感覚のあるエンジニアを育てる指導

産業界へ貢献するための知識を身につける近道である同校。その場所を目指す中学生は、一体どんな将来を描き入学をしてくるのか、気になるところである。

中野:航空宇宙工学コースの約40人のクラスの中で「飛行機の整備士になりたい」と明確にイメージしているのは4、5人。「宇宙工学系の仕事に就きたい」という子が2、3人というところ。その他の多くは「飛行機が好き」「宇宙が好き」という漠然とした興味から志望してきた学生が多いですね。

石川:推薦入試では面接があるのですが、そのときに私たちが見るのは、科学や技術の分野に興味があるかということと、広い視野からの発想ができるかということ。例えば現在販売されている扇風機などの家電のように、一見「航空宇宙工学」とは遠い世界に見えても、実は航空力学の知識を応用しているものもある。将来このような分野で自分が学んだことを生かすには、むしろ「飛行機が好き」「宇宙が好き」という立ち位置からスタートして、ここで興味や知識を広げていく流れのほうがよいのかもしれません。

中野:航空宇宙工学の世界で一番大切なものは「バランス感覚」。それがなければ飛行機や衛星を飛ばすことができません。私たちは飛行機や衛星の仕組みを教えることを通して、実は人格的にもバランスのとれた人材を育成しているのです。航空宇宙エンジニアの世界では今、工学の知識のみならず、語学や経営に関しても興味や知識を持つ人材が求められています。そんなニーズに対応すべく、幅広い観点から物事をバランス良く考えられる学生を、入学から5年、7年という時間をかけて輩出していきたいなと考えています。

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「学生の能力が発揮できる場所を示してあげるのが役目」と話す中野先生

人を惹きつける宇宙ビジネス人材を育成したい

「学習」が「研究」へと深まっていく高学年の段階では、他大学・機関とのコラボレーションも行われる。同校を中心とした衛星プロジェクトが作成し、2009年にH-IIAロケット15号機によって打ち上げられた「KKS-1<愛称:輝汐(きせき)>」は、学生による画期的な宇宙への取り組みとして話題を呼んだ。

中野:実際の航空宇宙工学の世界でも、さまざまな研究者のコラボレーションにより新しい技術が生まれ、発展していきます。高等専門学校や大学のレベルで、それぞれがアイデアを持ち寄って「日本の航空宇宙の力を世界に示そう」と研究を深めていくことは、非常に大切なことです。

このようなコラボレーションが活発に行われることで、より実践的な学問へと発展し、学生たちにも大きなメリットとして還元される。ただ、現在の宇宙ビジネスではエンジニアだけではなく、例えば財務、広報、人事など、さまざまな役割のプロフェッショナルが必要とされるようになった。「エンジニア」という領域から「宇宙ビジネス」全体を見渡すことができる人材の教育に、今後学校としてどう関わっていくのかを最後に聞いてみた。

中野:私も今まで宇宙ビジネスを展開するいろいろなベンチャー企業を見てきましたが、資本力や衛星打ち上げのリスクなどを考えると、成功するにはエンジニアの力だけでは難しさがあるなと感じます。
成功を目指す起業家に共通しているのは、人を惹きつける力が圧倒的に高いということ。プレゼンテーションのうまさだったり、周りをワクワクさせる企画力だったり、それらは技術の指導とは別のところで身につけさせる必要があるのかもしれません。今後は実際に宇宙ビジネスの世界で活躍している先輩に学生の前で語ってもらうような、講演やシンポジウムなどの機会を増やしていけたらいいなと考えています。

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石川先生の研究室にて。後ろに写るのは小型衛星。取材当日も、学生が試行錯誤する姿が見られた。

インタビュー終了後、飛行機、ヘリコプター、航空用エンジンなどの実物を始め、歴史的にも価値がある品を展示する「科学技術展示館」、本格的な実験設備や工作機械が整った実験室や工場などを案内してもらい、熱心に自己の研究に取り組む学生たちの姿をそこかしこに見ることができた。「これから航空宇宙の世界を目指す子どもたちに、自分が興味を持つことを存分に学べる場が東京にあるということを知ってもらいたい。そして学生のみならず、空と宇宙を愛する人たちが気軽に集まれる居場所として、この学校を身近に感じてもらえたらいいですね」。新たな超小型衛星の制作を前に学生たちの士気が上がる研究室でこう語る、石川先生の熱い眼差しが印象的だった。

そらこと編集部

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