リモートセンシング技術が
秘めた可能性(中編)

農業から派生して様々な用途へ。情報インフラへ整えたい、リモートセンシングのこれから

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  • 宇宙システムインテグレーター"として今で言う社内ベンチャーを立ち上げた
  • 1997年に、人工衛星リモートセンシングデータの解析をはじめ、データベース構築などを行うビジョンテック社を立ち上げる
  • リモートセンシングは『アグリルック』を起動したら役に立つデータがそのまま出てくるというのが理想

リモートセンシング技術による水稲場農業情報提供システム『アグリルック』を作った株式会社ビジョンテック。代表の原 政直さんは、1980年代から今まで民間の立場で人工衛星に携わり続けてきた、いわばリモートセンシングのプロフェッショナルだ。その原さんがリモートセンシングに魅了されたきっかけとはなんだったのか?リモートセンシングの今後をどう考えているのか?などを伺った。

きっかけは、雑誌の表紙だった

 「私はもともとは半導体などを扱う商社で、医療画像機器を担当していたんです。1980年代だから、X線CT(X線を使って体の断面を撮影する装置)がちらほらと入ってきたぐらいの時期ですね。イギリスで発明されたもので、エリザベス女王が日本に売り込みに来ていたんですよ。」

当時は、現在のように自由に画像をプリントアウトできる出力装置が存在しない。そこでX線CTで撮影した画像の1ドットを1文字で代替して文字専用のラインプリンターで出力することで、アスキーアートのように表現していた。その文字に色が付いたらもっとわかりやすくて便利になるんじゃないか?ぐらいが最先端の時代である。
それでも、人体を直接切ること無く中がどうなっているのか画像で見ることができるX線CTによる診断の確実性は大きく向上する。原さんも、自分の仕事は医療分野で人類に貢献ができるものだと自負していた。

ところがある日、原さんは自分の人生を変えてしまうことになる一枚の画像に出会う。
それは、とあるコンピューター雑誌の表紙に使われていた、人工衛星から惑星を撮影したカラー写真だった。

 「人体というすぐ手の届くところの写真はモノクロでしか見えないのに、遠く離れた宇宙空間の惑星がこんなきれいなカラー写真で撮れる。これはスゴい、と衝撃を受けたのを覚えています。」

タイミング良く...と言うと言葉は悪いが、時期的にはアメリカでアポロ計画が予算削減で中断されていた直後、NASAのエンジニアたちが大量に解雇されていた頃である。優秀な技術を持ったエンジニアが民間に流出し、企業も彼らを迎え入れた上で宇宙技術に取り組もうとしていた。

 「まさにその頃、アメリカの知人から「人工衛星からのデータを高速で処理するための装置を日本で開発・販売したいんだけど誰か手伝ってくれる人はいないか?」という相談を受けたんです。で、これは千載一遇のチャンスということで私が手を上げました。それが宇宙との関わりの始まりですね。」

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社内ベンチャーとして衛星データ加工の仕事を始めた

医療から宇宙へ

原さんは、医療画像から一転、人工衛星からのデータ運用やシステム構築などの業務を一括で請け負う"宇宙システムインテグレーター"として活動を開始した。立場としては半導体商社に在籍したまま、今で言う社内ベンチャーを立ち上げたのである。

 「日本初の地球観測衛星であるMOS-1(もも1号)からのデータを見ると、例えば海表面の温度が一目でわかる。これまでは海にブイを投げ入れてピンポイントで観測していたものが、画像から面で見渡せるんですよ。地表の植物が生きているか死んでいるかも時系列で見える。これはいずれ人類にとって必要不可欠なものになるな、と確信したんです。
ただ、まだちょっと時期が早かったようであまり儲からなかった。会社はどこでもそうだと思うんですが、3年でお金にならない事業はやめよう、ってことになるんです。私としては「これはいける」と確信していましたが、実績がついてこなかったんです。」

ところがまたしても幸運なことに、そのタイミングで原さんの元に、気象情報会社のウェザーニューズ社からヘッドハンティングのオファーがきたのである。
ウェザーニューズならもちろん人工衛星のデータを使っているし、さらに、人工衛星を使った通信も使用していた。気象は自然災害とも密接に関わっており、災害発生時には通信のリアルタイム性が重要になるからだ。
そこで原さんは人工衛星からのリモートセンシングと、災害時の通信問題のプロフェッショナルとして、商社で原さんの元にいたチームごとウェザーニューズに入ることとなった。

情報インフラとしてのリモートセンシングとは

そして入社して5年後、ウェザーニューズ社が上場することとなったタイミングで原さんは独立。今からちょうど20年前の1997年に、人工衛星リモートセンシングデータの解析をはじめ、データベース構築などを行うビジョンテック社を立ち上げることとなった。
会社としてまず一番最初の事業として挙げたのが、ウェザーニューズ時代に関わった「防災」と、その表裏の関係にある「環境」だった。環境が崩れると災害が起きやすくなり、また災害が起きると環境が乱れる。非常に重要な問題だと原さんは考えていた。
しかし、その頃はまだ民間の自助という考えも薄く、災害対策は国のやることだというのが一般的な認識だった。これでは商売になりにくい。
そこで改めて、「防災」「環境」に「農業」「水産」を加えた4本の柱を打ち立てよう、ということにした。

 「農業も水産も自然を相手にした仕事だし、自然環境が変化すると収穫などに大きく関わる。水産業の方なら津波情報だって気になるでしょう。農業と水産に必要な、仕事の役に立つリモートセンシングデータを提供しつつ、ついでにオマケとして環境情報や防災情報を流せば、使ってもらえるんじゃないかと考えたんです。」

確かに災害発生時には、現場の状況を航空写真などで俯瞰して確認するのは難しい。例えば大規模な地震が発生したとして、人工衛星からなら救助作業の邪魔をすることなく、広い範囲を見渡して被害状況が確認できる。リモートセンシングのメリットが大きく生かされるジャンルと言えるだろう。

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原さんはこの発想をさらに押しすすめ、リモートセンシングを情報インフラとして整えたい、と考えている。

 「人工衛星って一度飛ばしてしまえば後は同じセンサーで定期的に地表面を観測して、そのデータを送ってくれるんだから、それを利用しない手はないですよね。あとは人工衛星から飛んでくるリモートセンシングのデータを誰でも使いこなせるように情報にすることでインフラとして機能するはずです。
 例えば、いま新潟のJA北越後では、弊社の『アグリルック』を9,000人ぐらいの農家の方に使っていただいてます。そこで地震などの災害が発生した場合、『アグリルック』を通して被災された方に直接、「人工衛星から見て、いまこの土地はこんなことになってます。復旧はこれぐらい進んでいます」などの情報が提供できます。
 電気はどこで発電してるとか送電の仕組みなんか知らなくても、ただコンセントを挿し込むだけで使えるでしょう。リモートセンシングも『アグリルック』を起動したら役に立つデータがそのまま出てくる、みたいな感じにしたいんです。」

次回は「宇宙から夜の灯りを見ることでCO2排出量がわかる?」といった農業利用以外のリモートセンシング活用の現場の話をお伝えします。さらに「宇宙からのデータを活用するのに必要なこととはなにか」なども深く掘り下げて、原さんに伺っていきます。
お楽しみに。

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