リモートセンシング技術が
秘めた可能性(前編)

知りたいのは「いま、何をすれば美味しいお米になるか?」農業の問題点を解決するリモートセンシング技術

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  • リモートセンシング技術が農業の問題点を解決する
  • リモートセンシングの弱点、「雲」を克服
  • 平成30年にはISSに搭載されるのではないかと言われている期待の技術

水稲場農業情報提供システム『アグリルック』は、人工衛星で観測された画像データを元に、水稲の生育状況や気温情報をはじめ農業災害情報など多様なデータを毎日更新。民間企業による宇宙からのデータを利用して農業をサポートするシステムである。

この『アグリルック』を運用する株式会社ビジョンテックの代表、原 政直さんに、リモートセンシング技術を用いた農業の実際や、今後の展開について伺った。

農業の問題点を解決するリモートセンシング技術

いま、農業...特に水稲栽培においては、農業従事者の高齢化、次世代の担い手不足、気候変動、そして産地間で食味の良い米作り競争などが問題となっている。
これらを解決する一つの方法として提案されたのが、人工衛星によるリモートセンシング技術の農業への利用である。
市場からは「もっと美味しいお米を」と言う声もあれば「うちの提供する牛丼にマッチした米が欲しい」というピンポイントな要望もある。そういうニーズに細かく応えるためには、従来からの日本の緻密な農業技術を維持しつつ、若い担い手を育てていく必要がある。

原 「担い手の問題は大きいですね。まず農業をやろうという若い人がいないんですが、そもそも「農業ってどうしたらいいのか」が分からないから、やろうと思わない。でも、こうすればこういう結果が出るよ、という指標がデータの形であれば、やりやすいでしょう。」

リモートセンシング技術を用いた農業における大きなメリットは、従来なら長年営農に携わってきたベテラン農家のカンに頼ってきた栽培技術が、目に見える画像データとして提供されるということだろう。
8月の何日に穂が出ます、という出穂時期の予測ができれば、じゃあその何日前に穂肥をしましょう、ということも分かる。水田ごとに最適な肥料の量も分かる。これで事前に人員の手配もできるし、コスト管理もしやすくなる。
実際の例で言えば、これまで管理していた水田全部に同じ量だけ一律に数百万円分の肥料をまいていた農家が、アグリルックによって水田ごとに稲の生育状況に合わせた肥料量を調整したところ、年間で10%のコスト削減につながった、という。

原 「やはりコストは重要ですよね。アグリルックのコンセプトは「農家の方の収入を増やす」ということです。まず、情報を誰でも買えるような金額にすることで、例えば人工衛星から1シーン撮影するのに10万円とします。そこに水田が10万筆あったら1筆あたりの単価は1円です。これは安いですよね。この金額と肥料を削減できたコストと比べて「情報買った方が得だな」とならないとダメ。
アグリルックは、ふんだんにデータを使いたい部分は可能な限り無料のデータを使い、ピンポイントで精密な画像データから得られる情報が欲しいと思った部分はできるかぎり実用的な、それでいてコストパフォーマンスの良い人工衛星データを選んで活用しています」

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ビジョンテックでは、衛星データを「使える形」で提供することを大切にしている

知りたいのは「いま、何をすれば美味しいお米になるか?」

農業における衛星リモートセンシング技術の利用で、いま現在よく利用されているのが『食味マップの判定』というもの。
これは、刈り取りの前に水田を人工衛星から観測することで、いまこの水田のお米は美味しくできているのかの指標となるタンパク質がどれぐらい含まれているのかを見極めるものだ。

原 「食味マップは「美味いお米ができたかどうか?」という判定なので、来年以降の米作りの指針になるもの。それだけでももちろん便利にはなるんですが、でも、知りたいのはやはり「いま何をすれば米が美味しくなるか」じゃないですか。やはり農家の方としては、今現在の状態を知りたいですよね。」

食味マップの作成は基本的に一年に一度、収穫期の前に行うだけだが、アグリルックでは毎日観測が行われている。そのため「稲の様子がおかしい。あの水田のこの辺りで病気が発生しているのではないか」というピンポイントの情報も手に入る。これで被害の拡大を抑え、損失を最小限度に止めることも可能となる。
先にも述べた穂肥のタイミングを知ることも、稲を育てるためのプロセスとして重要なポイントだ。いずれも従来であればベテラン農家のカンなどに頼る部分だったのが、衛星リモートセンシングによる観測データを利用することで誰にでも分かるようになった、ということである。

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農業で人工衛星データを利用するには現地観測データが欠かせない。

衛星リモートセンシングの弱点を克服

農業において革命的と言えるほど有用性の高い衛星リモートセンシング技術だが、ひとつ、弱点ともいえる難敵が存在する。それが、雲だ。
人工衛星が宇宙から地表を観測しようとした時に雲が発生していると、その雲が目隠しとなり地表が見通せなくなってしまう。もちろん観測した画像にも雲がかかって肝心の水田は見えないし、データ解析も難しい。

原 「しかし実は弊社には、画像から雲を除去する技術があります。画像を独自の雲除去フィルタで処理することで、雲と、地表に投影された雲の影まで取り除くことができるんです。この技術開発には長い年月がかりました。」

いま、アグリルックのサーバーには、ここ10年間のアジア地域全域を10日ごとに撮影した膨大な量のデータが、全て雲無しの状態で蓄積されているのだそうだ。
そのため、日本国内だけではなく、スリランカやモンゴルといった海外からも導入の引き合いがあるとのこと。

原 「いまは、ポルトガルから「ワイン用の均質なブドウを作るのにアグリルックが使えないか」という引き合いも来ています。リモセン屋としては、人工衛星で作ったワインの味に、ちょっと興味がありますね。」

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田植から刈取まで常時観測できる。過去10年のデータと比較分析できる

宇宙からレタスとキャベツを見分ける方法

現在のところ、日本における農業分野でのリモートセンシング技術利用は、ほぼ水稲栽培に限定されている。麦と大豆にも利用されている例はあるが、やはり耕地面積の比率が圧倒的に多く、画像からの解析が平易ということもある
しかし今後は、人工衛星や宇宙ステーションにハイパースペクトルカメラを搭載することで、宇宙からキャベツとレタスの見分けがつくようになる、と言われている。
人間の目は赤・緑・青という3バンド(光の三原色)を組み合わせたものを、波長として認識している。ところがこのハイパースペクトルカメラでは、人間の目では分類しきれない波長(100〜200バンド以上)に分解して認識し記録することができる。つまり、キャベツとレタスの違いをライブラリとして持っていれば、画像上で簡単に区別がつくようになるのだ。

原 「他にも「病気になったレタスの色」や「栄養過多のキャベツの色」のデータがあれば、もちろんそういったトラブルもピンポイントで見分けられるんです。平成30年にはISS(国際宇宙ステーション)に搭載されるのではないかと言われていて、いま期待の技術ですよ。」

次回は、日本のリモートセンシング黎明期のお話や、なぜ原さんが人工衛星と関わるようになったのかを伺います。実は"一冊の雑誌の表紙"が宇宙の入口になったとのこと。お楽しみに。

そらこと編集部

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