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準天頂衛星「みちびき」で変わる、衛星測位ビジネスの世界(前編)

種子島宇宙センターから打ち上げられ、地上から約32000kmの高度に達した準天頂衛星「みちびき」。日本の「ほぼてっぺん」から発せられる位置情報信号がもたらす、計り知れない可能性とは。

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  • 準天頂衛星「みちびき」の打ち上げにより、これまで以上の精度での位置情報測位が可能になった。
  • 誤差は95%の確率で6cm以内に。cm級の測位補強信号発信を実現。
  • 自動車の自動運転をはじめ、IT農業、IT施工の分野での活用が期待される。

カーナビやスマートフォンなどで私たちが日常的に活用しているナビゲーション機能。地球上空をめぐる衛星からの信号を受信することで稼働しているのだか、実は現在、我が国はその仕組みを海外の衛星に頼っている。しかし地球のほぼ全域をカバーしているはずのGPSなどの測位衛星からの信号でも、なぜか誤差が生じてしまう。そこで注目されるのが、日本独自の準天頂衛星「みちびき」だ。2017年6月1日に2号機の打ち上げが成功し、さらに年内に計画される3号機、4号機の打ち上げが完了すれば4機体制での本格運用が開始されるこのサービスが、産業面に与えるインパクトは如何ばかりか。「みちびき」が描き出す未来図を、一般財団法人衛星測位利用推進センター専務理事の三神泉氏に訊いた。

みちびきの驚くべき測位精度

「アーバンキャニオン(都会の峡谷)」という言葉をご存知だろうか。主にナビゲーションシステムの分野で使われるワードで、東京の都心のように高層ビルが立ち並び、さながら人工的な峡谷のようになっている地形を表現している。このような地域では測位衛星からの信号が建物などによって遮られ、正確な位置情報が得られにくいという問題がある。
グローバルサービスを展開する測位衛星を用いた現行のシステムにおける問題点を解決し、さらに位置情報サービスの活発な利活用を図るための"主人公"として期待されているのが準天頂衛星「みちびき」であり、「みちびき」により実現するシステムが「QZSS(Quasi-Zenith Satellite System)」である。

三神:衛星測位システムとして一般的に使われているアメリカのGPSは有名ですが、ほかにも、ロシアの「GLONASS」、ヨーロッパの「Galileo」、中国の「BeiDou」などが地球規模での測位を行っています。しかしいずれも日本からの視界に入る衛星の数が少ないことから、安定的なサービスを受けることができませんでした。これに対し、日本独自の測位衛星である「みちびき」であれば、日本上空にとどまる時間を長くする特殊な軌道で航行するため、いつでもどこでも利用できる安定した衛星測位サービスを実現することができる。それが「みちびき」によるQZSS最大のメリットです。

高精度の衛星測位を安定的に確保するためには、8機以上の衛星でエリアをカバーすることが望ましいとされているが、すでに稼動している2機と今年中に打ち上げが完了する2機、さらにGPS等を組み合わせることで、その理想的な形が出来上がる。しかもその誤差は、約95%の確率で6cm以内に収まるという驚きの正確さだ。cm級の測位補強信号を発信する「みちびき」の打ち上げは、それを活用する産業界にとっても大きなインパクトになる。

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一般財団法人衛星測位利用推進センターは、衛星測位を利用した事業活動の活性化や事業化を行っている。みちびきの実証実験を行う、エキスパート集団だ。

大きく進化する自動運転、IT農業、IT施工

現行のGPSなどによる衛星測位では、一般的に約10m程度の誤差が発生してしまう。それを我が国独自の技術により、cmのレベルで測量を可能とした「みちびき」の利用範囲はまさに無限大だ。

三神:現在、内閣府などで積極的に進めて入るのは、自動車の自動運転システム、IT農業と呼ばれる農業用車両の自動運転システム、さらにはIT施工と呼ばれる土木現場・鉱山などで活躍する施工用機械の自動運転システムといった分野です。
今までのGPSなどを使用したシステムでも、ある程度の精度を出すことはできていましたが、例えば自動車の自動運転であれば車線のどちらを走っているかという細かな情報までは把握することができませんでした。それがcm級の測位精度が実現するとなれば、もっと正確な状況を反映した安全性の高い走行が可能になります。最近問題になっている高齢者による交通事故の減少や、高齢者等の多い地域での自動運転による公共交通網の整備などにも貢献することでしょう。
またIT農業やIT施工の分野では、これまでは人間が注意深くコントロールするしかなかった緻密な作業分野を、機械に任せることで時間と労力を他の仕事に注ぐことができる。これまで現場での作業が不可欠であった農業や土木の仕事のイメージが、パソコンの遠隔操作でトラクターや重機を動かすようになれば大きく変わることになるでしょうね。

このような「安全性や生産性の向上」「作業の軽減」といった直接的な利点に加えて、
・安全性確保のために自動車に取り付けられている多くのセンサーが、正確な位置情報により単純化され、結果として車の販売価格が下がる
・熟練を要する機械操作の技術を機械自身に任せることができれば、人手不足などの雇用問題の解決につながる
など、「みちびき」による測位技術の向上が、私たちの暮らしに間接的に与えるメリットも実は少なくないと三神氏は指摘する。
さらには、防犯・防災、観光、広告、健康...など、ありとあらゆる分野でのビジネスやサービス利用が飛躍的に活性化することも期待されている。

三神:しかも、このような利用を促進するcm級の測位信号が、日本では事業者に対して無料で提供されるのです。これにより、いろいろなアイデアがいろいろな人たちよって生み出され、共有されていくでしょうから、ビジネスの裾野はさらに大きく広がっていくことでしょう。

三神氏の話から、「みちびき」が発信する測位信号とそれによって広がりを見せるビジネスの可能性がいかに大きなものか想像できたと思う。次回は引き続き三神氏に、「みちびき」の測位信号ビジネスを模索する人材の育成などの課題と取り組みを中心に語ってもらおう。

そらこと編集部

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