青森県

地球観測データの農業活用
産官学でブランド米を(前編)

青森県のブランド米を作るのは衛星データによる農地管理。産官学連携で衛星データを活用する。

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  • 平成24年に収穫に最適な時期を衛星画像から判定する取組みが実用化
  • リモートセンシング技術の利用で水田ごとの状況が広域で把握できるように
  • 米は「晴れ渡った空に突如現れた稲妻のような、鮮烈な存在になれ」との願いから名づけられた

地球上空の衛星軌道上にある人工衛星から地上にある対象を観測する技術...リモートセンシング。
これまで火山活動や気象情報の把握などに多く使われていたこのリモートセンシング技術が、いま、農業の分野で注目されている。
なかでも、青森県の『青天の霹靂』は、リモートセンシング技術を活用し、発売以来2年連続で食味ランキング最高評価の「特A」を取得。新しいブランド米として早くも市場での人気は高まっている。

しかし、そもそも人工衛星から何を観測すれば美味しいお米が作れるのか?
青森県 地方独立行政法人 青森県産業技術センターの農林総合研究所でリモートセンシング技術を活用した農業の研究に取り組む、生産環境部 境谷栄二部長にお話を伺った。

リモートセンシングによる食味向上の探求

境谷「お米として最も重要なのは「食味」=美味しさです。青森県でも、美味しいお米を作るというのが至上命題となっていました。
とはいえどうすればいいのか...とやり方を模索している中で、北海道で人工衛星によるリモートセンシングでお米の食味(タンパク質含量)を判定することができた、という論文が発表されたんです。」

そこで、青森でも県の事業として「リモートセンシングにチャレンジしよう」となったのが平成18年のこと。
もちろん、当初は県の農林総合研究センター(現農林総合研究所)でも人工衛星や航空機から観測したデータを扱ったことはない。境谷部長としても完全にゼロベースでの挑戦だった。
青森初のリモートセンシング技術の導入は、まず津軽平野で一般的に作られている『つがるロマン』という品種を使ってスタートした。航空機で撮影した画像から米のタンパク質含量を収穫前に判定し、特に美味しく仕上がった水田の米を区分集荷する。県や市役所、JAと協同で研究に取り組み、平成19年に『おいしさキャッチ米』として実用化した。この『おいしさキャッチ米』は、白米10kg当たり100円の付加価値を付けて販売されている。

さらに、境谷部長とJA等との話し合いの中で、収穫時期を人工衛星で把握できないか、という話になった。

境谷「お米というのは、収穫時期が遅くなると米自体が硬くなって食味が落ちます。しかし早すぎると今度は収量が少なくなって農家さんの収入が減ります。しかしそのバランスが取れた収穫適期は、従来のように稲穂の状態から判断していたのでは、見定めるのが難しいんです。また、つがるロマンを栽培していた津軽の中南地域では、何年かに一度、お米が収穫前に籾の中で割れてしまう「胴割米」の発生が問題になっていました。夏の気温が高く、かつ収穫が遅れると胴割米になるんですが、これも最適な収穫タイミングが分かれば防げるわけです。」

収穫に最適な時期を衛星画像から判定する取組みは、平成24年に実用化。平川市のカントリーエレベータに集荷されるお米について、収穫計画の調整にデータが活用されている。また、衛星画像から収穫適期を判定してみると、適期の早い遅いの傾向は地域ごとに毎年一定していることもわかった。そこで、例年収穫適期が早い地区は、他の地区よりも収穫の順番を早めることで、収穫に大幅な遅れが生じないよう日程調整できるようになった。

『青天の霹靂』でのリモートセンシング技術の活用

平成27年、『ひとめぼれ』などの良食味米を先祖にもつ新品種・青系187号が誕生した。
公募により「晴れ渡った空に突如現れた稲妻のような、鮮烈な存在になれ」との願いから『青天の霹靂』と名付けられたこの米は、すでに一定の成果を得ていた『おいしさキャッチ米』のノウハウを取り込み、最初から生産管理にリモートセンシング技術の導入が計画されていたという。青森県の推奨品種に指定された『青天の霹靂』は、津軽平野の広い範囲で栽培されることとなった。『おいしさキャッチ米』では、津軽平野の一部(平川市)で実施していたため撮影面積は100km2程度であったが、「青天の霹靂」ではすべての水田を撮影するために撮影面積を3,000km2まで拡大。

『青天の霹靂』は、品質を保持するために作付け地域や出荷基準を厳しく定めており、農家も完全登録認可制となっている。その登録申請された農家の水田1枚ずつを地図データとしてマッピングすることで、これほど広い面積でも、どの水田がどの農家のものかを把握できるのだ。

人工衛星からの撮影は、8月中旬から9月中旬にかけて実施。衛星画像でみると、水田ごとに稲の色に違いがある。収穫時期に近い稲ほど穂の色が黄金色に近づいている(=葉緑素の量が少ない)。そこに地上のアメダスで観測した出穂後積算気温(穂が出てからの平均気温×日数)のデータなどを合わせて水田地図に重ねると、水田ごとに「収穫時期は何月何日がベスト」といった「収穫適期マップ」ができあがる。また、栄養条件が過剰な稲は葉の色が濃くなる(=葉緑素の量が多い)。衛星画像で判断した色の状況と実際に地上で調査した米のタンパク質含有率から、収穫後に「タンパクマップ」も作成する。
米の食味は、タンパク質含有率が低い方が良い。特に『青天の霹靂』は、出荷基準を「玄米タンパク質含有率水分15%換算6.4%以下(乾物で7.5%以下)検査等級1・2等」と厳密に定めている。そこで、この「タンパクマップ」は、次の年に「この水田の米はタンパク質含有率量が高いから次は肥料をこれぐらい減らそう」といった、食味向上のための施肥指導を数値的に行うベースとなるのである。また、新しい技術として、田植え直後の土の色を人工衛星で観測し、津軽平野で水田ごとの土壌の有機物含量(肥沃度)をデータ化。作付けする品種の選定など、これも水田ごとの評価に役立てているという。

境谷 「今はいろんなデータを現場に提供して、使えるかどうかを判断してもらっています。あとはGIS(人工衛星や現地調査のデータを管理編集するための地理情報システム)をJAの指導員の方に、より使いやすいように改良することとしています。
農家の方には、スマホなどから現場で簡単にマップが確認してもらえるようになっているんですが、指導用の詳細なデータを扱うGISは、利用するために憶えなければいけないことが多いのです。利用してもらった感想を基に、今後はもっと簡単に指導ができるように改良したいです。」

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リモートセンシング技術を活用した農業の今後

このようにきめ細かく人工衛星と現場で目を配り続けて作られた『青天の霹靂』は、青森県産米として初の食味ランキング「特A」を取得。初年である27年産の2700トンは早々に売り切れ、28年産の7400トンも米卸業者との契約は全て終了し、完売となった。
流通においては、青森県だけでなく、東京の百貨店・スーパーでもすでに注目の新ブランド米としての評価を受けつつある。

境谷 「人工衛星によるリモートセンシング技術によって、水田ごとの状況が広域で判るようになってきました。これまでも、人手で調査する方法はありましたが、労力がかかり多くの水田の状況は把握できません。各々の水田の状況に即した栽培指導や管理が理想形ですが、リモートセンシング技術の利用でこれに近づけたと感じています。
研究を開始した10年前に比べて、人工衛星の撮影頻度や情報伝達の環境が格段に良くなりました。以前は、人工衛星の撮影頻度が少ないので航空機を利用していましたし、「タンパクマップ」の情報を農家に伝達するのも、何百通も紙に印刷して郵送していましたから。今は、指導員のスマートフォンの所有が7割以上で、JAでのタブレット導入も進んできました。平成28年度からは、衛星情報をタイムリーに伝達するため、当センターで開発したWebアプリを利用しています。衛星情報を上手に利用してもらうためシステムの操作研修会も行いました。
今後も、衛星情報を現場で利用しやすく、農家の収入増加に繋がるよう技術をさらに組み立てていきたいです。」

【補足:青森県産業技術センターでの研究の一部は、生研支援センター「SIP(戦略イノベーション創造プログラム)」・「革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)」からの支援を受けています】

次回は、実際に『青天の霹靂』を栽培している農家・栽培指導を行うJA・青森県農林水産部の方々に、三位一体のチームで取り組む「リモートセンシング技術を活用した農業の現場」のお話を伺います。

そらこと編集部

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