世界一のハンドスピナーを作る
宇宙機器メーカーがタッグを組んで本気の挑戦(前編)

宇宙技術を使って作ったハンドスピナーがギネス世界記録(R)を達成。そのハンドスピナーを通して、三菱プレシジョン株式会社とミネベアミツミ株式会社の技術の高さを証明した。

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  • 宇宙機器「ジャイロ」の技術を応用、ハンドスピナーのギネス世界記録を達成
  • 宇宙機器メーカー、三菱プレシジョン株式会社と、ミネベアミツミ株式会社がタッグを組んだ
  • ギネス世界記録、24分46.34秒を達成

独楽(コマ)のように手で回して遊ぶ玩具、ハンドスピナー。それを日本の宇宙開発の技術で「超真面目」に作ったら、ギネス世界記録に認定されるハンドスピナーが完成した。

宇宙機器「ジャイロ」の技術を応用、ハンドスピナー世界記録を達成

ハンドスピナーは、中央にベアリング(軸受け)が付いた物を手で回して遊ぶという、シンプルな玩具だ。手に持って遊ぶ独楽(コマ)と言っても良いかもしれない。一方、人工衛星やロケットなどの宇宙技術には、ジャイロという回転機器が使われている。人工衛星やロケットの傾きや回転を正確に知るためのセンサーだ。このジャイロのデザインが今回のハンドスピナーに応用されている。

このジャイロを製造している三菱プレシジョン株式会社と、ジャイロに欠かせないベアリングを製造しているミネベアミツミ株式会社が、ハンドスピナーを共同開発した。無論、ただのハンドスピナーではない。「一本の指の上でハンドスピナーを回す最長時間」のギネス世界記録、24分46.34秒を達成したのだ。

なぜハンドスピナーを作ったのか?三菱プレシジョン株式会社 鎌倉事業所製造部長の長井淳(ながいじゅん)氏と、ミネベアミツミ株式会社 営業本部マーケティング部商品企画室主査の小口忠徳(おぐちただのり)氏にお話を伺った。

ハンドスピナーとジャイロ、「回転体を作る技術」という共通点

ミネベアミツミ 小口「2016年後半ぐらいからブームが始まったハンドスピナーは、弊社が生業としているベアリング(軸受け)を、一般の消費者が手にとって触れる製品です。弊社の社長や役員から、これを見て何か発想できないかと言われ、何百個か買い集めて全部調べてみました」

ハンドスピナーに使われているベアリングは当然、玩具として使える低価格のもの。しかし、種類がいくつかあり、それによって回転しやすさが異なることがわかってきた。こうなると、もっとよく回るものを作ってみたくなる。

ミネベアミツミ製ベアリングはあらゆる回転機器で利用されているが、中でも最も高い精度を求められるのは、三菱プレシジョンのジャイロに使用するベアリングだ。また、ジャイロ全体を開発しているのは三菱プレシジョンなので、回転体をどうやって作るかのノウハウは三菱プレシジョン側にある。冗談めかした会話で長井氏にハンドスピナーの話をしたところ、二つ返事で「面白いですね」と快諾された。

三菱プレシジョン 長井「ミネベアミツミ様は多くのメーカーさんとお付き合いされている中で、我々に声を掛けてくださいました。これはお断りするわけにはいかない。期待に沿えるものを作りたいなと意気に感じました」

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三菱プレシジョン株式会社 長井氏。ハンドスピナーの企画について驚くも、前向きに快諾。「その後は大変だった」と笑う。

手に取れば違いがわかる、スムーズな回転

完成したハンドスピナー「Real Spin Ms'」は、一般に見慣れたものとはだいぶ印象が異なる。一般的なハンドスピナーが三つ又などの形状の中心にベアリングを組み込んでいるのに対して、「Real Spin Ms'」は車輪のように、金属のリングと中心のベアリング、そしてスポークにあたる金属部品でできている。

実際に手に取って回してみれば、一般的なハンドスピナーとの違いは一目瞭然だ。ベアリングからのシュルシュルという摩擦音がほとんど聞こえず、耳を近づけるとようやくチーッという微かな高い音が聞こえる程度。また、軸を支える指がふらついてもベアリングが傾きを吸収して、リングは傾かずに回転を続ける。

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静かに滑らかに回るスピナー。安定感に優れた心地いい重さが指先に伝わってくる。

圧巻なのは速度が落ちてからだ。自然に止まるまでには20分かかってしまうのでわざとゆっくり回してみると、「Real Spin Ms'」はかなり遅い速度になってもなかなか止まらない。低速からの驚異的な伸びも、回転時間の長さに貢献している。

長井「ハンドスピナーは最初に手で回したときの初速だけで回転します。そこで、与えられた初速でどれだけ回転エネルギーを持つことができるか。それと回転の抵抗をどれだけ小さくできるか。この2つの要素で回転時間が決まるんですね。

回転のエネルギーは慣性モーメントという数字で表されるのですが、この慣性モーメントを大きくするには回転の外側に重みがあった方が良い。独楽(こま)の外側に鉄の輪を付けるのと同じ発想です。それを具現化したのがこのデザインで、重い真ちゅう(銅などの合金)の輪を使って、なるべく回転の中心から離れた外側に重みがあるようにしました。

内側には軽いアルミニウムを使って、穴を空けたり薄くしたりして、なるべく軽くなるような工夫をしています。加工難易度の高い部品ですが、やはり性能の良い機械は見た目も美しいですね」

小口「部品は全て我々が削り出し加工で作りましたが、長井様のかなり厳しいご要求をクリアしてきました。試作を繰り返す中でベアリングのサイズも変わったりしました。ベアリングにはセラミックのボールを使っています。金属のボールは力が加わると少しつぶれるように変形するので、抵抗になります。セラミックは硬いので、抵抗が小さくなります。通常、このサイズのベアリングにはセラミックボールは使っていませんので、特注です。

軸の傾きを受け入れるようなベアリングの特性を「ラジアルすき間」と呼ぶのですが、これほど大きなラジアルすき間を持つ製品を作ることは、通常はありません。こういう特別な物を作ることで、工業規格品を製造するなかでは得られなかった貴重なデータを得ることができました」

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ミネベアミツミ株式会社小口氏。「このプロジェクトを通してたくさんの貴重なデータが得られました」

ギネス世界一を達成

社を挙げて取り組んだハンドスピナー開発の締めくくりは、ギネス世界記録への挑戦だ。ハンドスピナーを回す人も責任重大。ミネベアミツミの社内から腕力のある男性、若い女性、器用そうな人など様々なタイプの人に練習してもらった。

小口「一度回転させて指1本で支える状態になったら、止まるまでそのまま保持しなければいけません。あまりにも高速で回転するので、指1本にする前に落としてしまうこともありました」

迎えた記録挑戦会本番。東京陸上競技協会の審判員の立会いのもと見事、24分46.34秒という世界記録を達成することができたのだった。

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ギネス世界記録24分46.34秒を達成。世界一のハンドスピナーが誕生した。

次回はさらに、ハンドスピナー開発のもとになった宇宙技術、ジャイロ開発についてインタビューを続ける。

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