宇宙探査ビジネス・カンファレンス I-ISEF (前編)

宇宙探査事業における将来ビジョンの共有、宇宙探査ビジネスへの参入機会の議論、各政府関係者、事業者、起業家や投資家等その他ステークホールダー間のネットワーク形成機会の提供を目的として開催されたイベント「I-ISEF」。前編では、宇宙探査の意義と社会経済に与える影響をレポートする。

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  • 宇宙探査がもたらす社会経済への影響とイノベーションの促進
  • 地上でできることを、宇宙でもできることにする
  • 変わる宇宙探査のプレイヤー

2018年3月2日(金)東京都にて、第2回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)(閣僚級会合)に合わせて、産業界を対象としたサイドイベント「I-ISEF」(ISEF for Industries)が開催された。

宇宙探査ビジネスは社会にどのような影響を与えるのか。各分野を代表する専門家たちにより議論が交わされた。

社会経済のイノベーションと宇宙探査の意義

img_5099-1.jpg各分野を代表する専門家たちにより、宇宙探査の意義について議論された

<茂木健一郎氏>ソニーコンピューターサイエンス研究所 シニアリサーチャー

「宇宙探査は、AI技術の進歩に大きなチャレンジと進歩を与えてくれる」そう語るのは、ソニーコンピューターサイエンス研究所のシニアリサーチャーであり、脳科学者でもある茂木健一郎氏。

火星では、有人探査は難易度が高く、当面は無人の探査機による探索が必須となる。地球上とは環境が大きく異なるため、予期せぬ事態が発生することは想像に難しくない。
「信頼できる無人システムを作ることと、AIの開発の進歩は方向性が類似している」と茂木氏は説明する。

現在、シンプルなルールの下で行われる将棋やチェス等のゲームでは、AIが人間よりも強くなったと言われて久しい。しかしながら、火星探査等の複雑な判断が求められる環境下では、予期せぬ事態に備え、非常に高度なプログラムを組む必要がある。このチャレンジングな環境で、信頼できる無人システムを作ることができたら、「AIの大きな進歩に繋がり、他の産業にとっても大きな影響を与えるに違いない」と続けた。

<落合陽一氏>ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 代表取締役

「イマジネーションを広げるために、自分の研究室をそのまま宇宙に持っていきたい」そう語るのは、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社の落合陽一氏。
「3次元で文字や絵を描く」のが落合氏の主な研究テーマである。超音波を使って、物質を空中浮遊させて移動させたり、レーザーで空気分子をプラズマ化させることによって、光で3Dの絵を描いたりすることができる。

現在の研究を無重力空間で行うことで、「世の中に存在しないソフト・ハードウェアを開発していきたい」と思いを語った。

<冨山和彦氏>株式会社 経営共創基盤 代表取締役CEO

株式会社 経営共創基盤の冨山氏は、社会的な視点で宇宙開発を見ることの重要さを語った。
「歴史から社会的なイノベーションを振り返ると、技術革新が、社会の変化に大きな影響を与えていることが分かる」と冨山氏は言う。
宇宙探査を通して、難題に挑むことにより技術革新が起きる。その結果、我々の生活は豊かになっていく。

一方で、「これまでの習慣になれている人にとっては、新しい技術を取り入れづらい。技術の進歩についていけず、取り残されてしまう人が必ず一定数いる」とし、社会が豊かになるのと逆行し、不便に感じる人が存在すると警鐘を鳴らす。
「社会と技術の間にある問題を見極めながら、経済を回す仕組みを作っていく必要がある」と説明した。

宇宙を『退屈』な場所にする

<Peter Marquez氏>Andart Global パートナー

「今後30年で私が一番興味をもっているのは、宇宙をとても『退屈』な場所にすること」そう語るのは、Andart GlobalのPeater Marquez氏。「現在、宇宙はとても魅力的であり、人々の関心を集める力がある」とPeater氏は言う。

実際2011年に、一度ロストしたはやぶさが帰還を果たした時には、そのドラマ性からもニュースで大々的に取り上げられ、日本中で大きな話題となった。
「私の考える宇宙開発の成功とは、すべての人が宇宙に行ける状態にすること。地上で受けられるサービスが宇宙でも同様に、当たり前に受けられるということである」とPeater氏は説明する。

『毎日の退屈で何の驚きもない日常を宇宙に持っていく』ことが彼の最大の関心事だ。
「一緒に力を合わせて宇宙を退屈な場所に変えていきましょう、今後の宇宙に必須なものは、『退屈さ』である」と持論を展開した。

<Bruce B. Cahan, J.D.氏>Urban Logic, Inc. 代表取締役
スタンフォード大学 Department of Management Science & Engineering 特任講師

現在、宇宙開発は、様々な国・民族背景を持った人々の力によって進められている。人類が宇宙に行く理由は、「やりがいがあるから」とUrban Logic, Inc.のBruce氏は断言する。

しかし、一方でその活動の資金集めについては、「乗り越えなければならない課題である」とした。
Bruce氏は、資金を集めるためには、投資家が宇宙開発事業に投資しやすいように基準を決め、シナリオを明示していくことが重要であると説いた。
現在取り決められている宇宙条約は、宇宙開発を商業化していくことを前提とした場合、不十分な内容だという。

理由は、投資家にとって理解しづらいからだ。
先ほどの「宇宙産業を退屈なもの」にするには、「あらゆるものをコモディティ化する必要があると言い換えることができる」とし、今後の計画を作り、技術をコモディティ化していくことが重要であると説明した。

変わりゆく宇宙探査ビジネスのプレイヤー

<Johann-Dietrich Woerner氏>欧州宇宙機関 長官

近年「宇宙探査のプレイヤーが変わってきた」そう説明するのは、欧州宇宙機関(ESA)のJohann氏。
宇宙探査は、開発にかかるコストが大きく一国で進められるものではないため、多くの国、企業の協力が必須な領域である。現在、欧州宇宙機関(ESA)が提唱するMoon Village構想では、月面に生活圏や開発拠点の構築を目指しており、様々な技術や、役割が求められている。

これまでは、各国の宇宙省がミッションを決定し、大手の民間企業に依頼をする流れだったが、現在では、様々な目的・技術・アイデアを持つ国や民間企業が月開発に向けてパートナーシップを組み、意見を出し合っている。
Johann氏は、「民間企業の持つ新しい技術である、AIやロボティクス、バイオ素材等を宇宙でも活用していく必要がある」とし、政治的な問題などが発生しにくい宇宙というフィールドで、「起業家精神をもって、積極的にこの構想に参加してもらいたい」と語った。

moonvillage.jpgESAが提唱するMoon Village構想のイメージ (C)ESA

民間企業を巻き込み、宇宙探査を加速させる

宇宙開発は、AIなどの技術革新や、最先端の研究テーマに新たな着想を与えることにより、社会的なイノベーションが起こる「きっかけ」となる可能性を秘めている。
そのような可能性がある一方、莫大なコストがかかるため、各国は共同で開発していくことを表明し、さらには民間との連携を掲げたのである。

国家主体で進めてきた宇宙開発の歴史にピリオドを打ち、民間企業の持つ様々な技術やノウハウを最大限に活用する方向に潮流が変わってきた。
この流れに乗り、宇宙開発を加速させていくには、さらに多くの資金が必要になる。
まずは、投資家から投資を引き出す宇宙探査のシナリオを作ること。そして、コストの明示化、技術のコモディティ化を推進していくことが今後のテーマとなる。

その結果が、宇宙を地上での日常と変わらない「退屈な場所」とすることに繋がっていくはずだ。

中編では、Moon Village構想をはじめ、注目を集める月探査に携わる「民間企業」と、月面での「地産地消」に関する議論の様子をレポートする。

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