日欧協力で宇宙ビジネスを創る
日欧宇宙ビジネスウィーク(中編)

2017年9月、4日間に渡って開催されたイベント「宇宙ビジネスウィーク」。中編では具体的なデータ利用のアイデアや取り組みなど事業者サイドの講演をまとめた。

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  • 衛星データはビッグデータのひとつ。マーケット戦略が大切
  • 土壌改善など地球規模課題の解決に衛星データは活きてくる
  • 衛星データを使いやすくするプラットフォームサービスが今後必要になる

前編では、主に政策提言をレポートした。「宇宙ビジネスウィーク」中編は、衛星データの持つ可能性についてまとめた。実際に衛星データを既利用している、もしくは今後利用したいと考えている事業者や研究者が登壇した。その様子をレポートする。

宇宙ビジネスのツーリズム活用

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村松知木氏(株式会社エイチ・アイ・エス オープンイノベーション事業部部長兼新規事業開発室室長)

どれだけデータを集めても、それを生かす市場戦略、つまりマーケットがなければ価値を持たない。そう語るのは、大手旅行会社H.I.S.でイノベーション事業を手掛ける村松氏だ。

村松「H.I.S.が衛星データを使うとしたら、自治体やベンチャー企業とコラボレーションをしたサービスを作っていくと思います。衛星データである3D画像と、自治体が持っている地域観光情報とベンチャー企業が持つ新しい技術を組み合わせることで、ユーザーを驚かせる新しいサービスを作り出せると考えています。
地図を見ただけでは、どこに高低差があるのか分かりませんが、3D画像と組み合わせれば、高低差が一目で分かる3Dマップを作ることができます。例えば、その3Dマップを使ったサービスを考えてみましょう。地方自治体が自転車を貸し出す・ベンチャー企業がヘッドセットを提供する。そして、街をサイクリングする際に自動翻訳が流れてくるアプリなどを提供する、そういったサービスが考えられるわけです。
衛星データにサービスや場所などを組み合わせていくことにより、宇宙データの活用の機会も促進されていくと考えています。」

村松氏の言う通り、衛星データを既存の自社サービスにつなげようとするときには、多くの企業同士のコラボレーションは必然だ。そのために、このようなイベントが開催されているともいえる。

農業分野における衛星データの活用事例

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境谷栄二氏(地方独立行政法人青森県産業技術センター農林総合研究所生産環境部部長)

次に、青森県にて衛星データを利用して水稲栽培を行う青森県産業技術センター農林総合研究所の境谷氏が登壇した。

日本において、米の販売価格は5㎏で1,500円~3,000円の間を推移している。安いコメと高いコメの価格の差は消費者がおいしいと感じるかどうかだ。高く売るためのおいしいコメを作るポイントは2つあると境谷氏は語る。

「ポイントのひとつめは最適な時期に収穫すること。ふたつめはタンパク質含有率を下げることです」

生育状態やタンパク質含有量を知るには、稲の色味を見る必要がある。これまでは、人との手で稲の色を調査していたが、それにも限界がある。稲の収穫時期や肥料の量について、適切なアドバイスをすることができなかったという。

「人力では、1日に多くて20枚の水田の調査しかできませんでした。しかし、2016年から衛星データを活用して、稲の生育状況の管理を行った結果、収穫時期についてのアドバイスを、各農家まで行えるようになりました。」

青森県のブランド米となった「青天の霹靂」は、生産管理の徹底により同地域で生産する他の品種の約1.5倍の価格で販売されている。高く売れるコメの実現を衛星データが可能にしたのだ。

山口県における宇宙情報産業創出の取組みと宇宙ビジネスコート

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藤本正克氏(地方独立行政法人山口県産業技術センター企業支援部電子応用グループグループリーダー)

地方における「しごと」と「ひと」の好循環を促進することを目的に、政府関係機関の地方移転が進められている。山口県もそのひとつだ。
2016年より国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が転入したことにより、山口県にて宇宙アセットを活用した新産業創出の取り組みがスタートした。

藤本「山口県は、全国的にも情報系の中小企業の割合が高いという特徴があります。大手企業が市場を独占しているわけではないため、新規でビジネスを起こすには恵まれた環境にあると考えています。」

そこで衛星データを利用した産業創出を促進する衛星データ解析技術研究会を設立し、衛星データを利用した新規ビジネスを支援して行くこととした。

藤本「しかし、衛星データ解析のノウハウや技術的なリソースがありませんでした。その際、宇宙ビジネスコートからの支援で、衛星のサンプルデータの提供から、技術支援、事業推進についてまで幅広くご協力をいただきました。」

今後も研究会では、宇宙ビジネスコートとの連携を強め、シンポジウムの開催やアイディアソンなどを積極的に行っていく予定だという。衛星データ技術者の育成、リモートセンシングに関するノウハウを蓄積し、2年以内には、山口県内において宇宙情報産業企業が誕生するよう全力でサポートをしていくと語った。

地球規模課題解決のための国際協力

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広瀬和世氏(一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構国際部部長)

Google EarthやAWSなどのデータやQGISのようなソフトウェアが無料で入手できる時代になった。それに伴い、新興国において衛星データを活用したいというニーズが高まっている。そんな中、一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構(JSS)では、2012年より、衛星データを活用した人材育成を開始した。

広瀬「新興国には土壌汚染や安全な水の確保など、先進国には既になくなった、さまざまな課題を現在も多く抱えています。しかし、解決する技術も人材もいないのが現状です。宇宙システム開発利用推進機構では、新興国の政府、企業、学生を対象に人材育成を通して国際協力を行っています。各国に協力関係を作り、拠点を作ること。そしてその拠点で事業を起こさせ、日本と産業シナジーを生み出すことにより、地球規模課題の解決に寄与することを目的としています。」

広瀬氏は「ABEイニシアティブ」「資源の絆」という国際協力事業で、アフリカをはじめとした海外の学生に対し、衛星データの活用に関するインターンシップを行っている。この日は、2016年のABEイニシアティブのインターンシップ生、アルベルト・アルマンド氏も同時に登壇した。アルマンド氏はモザンビークで災害管理研究所でインフラ構築に従事している。リモートセンシングを利用してハザードマップを作るなど、住民の安全を守る仕事だ。

アルマンド「現在は東北大学でリモートセンシングによる洪水や干ばつ監視の研究をしています。今後母国に戻ったあと、学んだ技術や研究の成果として、さらなる安全インフラの構築を目指します。課題解決には多くの協力が必要です。JSSでのインターンシップは、技術・人的ネットワーク構築の出発点となりました」

謝辞とともにインターンシップを通じて、母国の住民の安全を守ることが出来るようになることを誇らしげに語った。「ABEイニシアティブ」や「資源の絆」というプログラムを通じ、リモートセンシング技術がインフラ構築には欠かせないこと、それが地域住民の安全につながることなどが改めて理解できる講演となった。

センチネル・ハブクラウドによる衛星イメージ・プロセッシング・ツール

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グレガ・ミルチンスキ氏(2016年コペルニクスマスター優勝者Sinergise社最高経営責任者)

前編でもお伝えしたコペルニクスを活用したビジネスアイデアコンテスト「Satellite Masters Conference」が、毎年秋に、欧州で開催されている。
昨年の優勝の栄冠を勝ち取ったのが、クレガ・ミルチンスキ氏。Sinergise社を経する最高経営責任者だ。同社がサービス展開しているGISシステムプラットフォーム「Sentinel Hub」の全貌を語った。

クレガ「Sentinel Hubは、Web上で設定を行えば、必要なデータのみ表示させることができるGISシステムプラットフォームです。従来のように大きなデータをダウンロードすることなく、データの入手が可能です。
最近は、コペルニクスや、Landsat、JAXAでも衛星データを無料で提供しはじめ、衛星データの情報量が激増しています。それにも関わらず、データ入手の方法については変化がありませんでした。何ギガバイトあるデータだとしても、Webサイトを訪れ、興味があるデータを探し、ダウンロードする。また、データ使用できる形にするためにソフトウェアなどをダウンロードし、加工を加えなければ使用できる形式になりませんでした。
衛星データは、毎日テラという単位でデータが送られてきます。今後も得られるデータが増えることを考えると、データの入手方法を変える必要があるのは明確です。」

衛星データ利用の基盤となる、誰もが使えるプラットフォームがSentinel Hubだ。Web上で設定を行うだけで必要なデータがすぐに見られるという利便性、表示が可能な容量のデータを扱えるという現実性も相まって、データ利用を推進する上で欠かせないものとなっている。
クレガ氏は、今後、日本のデータも連携して、より価値あるデータのプラットフォームを作っていきたいと考えているという。

日本でも、衛星データ利用のために、データプラットフォームの構築が欠かせないものとなっているのは明白だ。今後の整備が急がれる。

後編は、この翌日、北海道札幌市で開催されたイベントの様子をレポートする。

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