宇宙飛行士向け技術を応用。
筋トレで健康寿命を延ばす。

無重力空間に滞在する宇宙飛行士向けの筋力トレーニング機器をシニアに応用。

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  • 活動量が低下すると筋力が衰える
  • 無重力空間の宇宙飛行士もそれは同じ
  • 宇宙飛行士向けのトレーニング機器をシニア向けへ応用

宇宙技術は私たちの日常にも深く関わっている。カーナビや空気清浄機、天気予報や枕など、普段何気なく使っているものにも、宇宙技術は応用されている。
もちろん、医療の分野でもそれは例外ではない。長時間無重力に晒される宇宙飛行士の健康を守るために開発された技術が、地上でも応用され、商品化しているものがある。久留米大学医学部整形外科の志波直人教授が発案した「ハイブリッドトレーニング理論」と宇宙飛行士が抱える問題点の共通点、また、それに基づき開発、商品化された「ひざトレーナー」について話を伺った。

当時、教授は電気信号とひじやひざの曲げ伸ばし運動の組み合わせで行う筋力トレーニングについて研究していた。「ハイブリッドトレーニング」といわれるこの方法では、短い時間で筋肉を効率良く鍛えることができる。長期間、活動量が低下せざるを得ない環境で起こってしまう筋萎縮を防ぐためにも、このトレーニングは効果があった。
入院をすると、生活の中で活動量が落ちる。そのため、入院生活を通じて体力低下や筋力低下、骨密度の低下が起こることはよく知られている。その様子が、宇宙飛行士が無重力の空間に長時間滞在することで起こる問題と共通すると、志波教授は考えた。
そこで教授は発案したトレーニング方法を宇宙航空研究開発機構(JAXA)へ提案。その有用性を認められ、さらに研究を進めるきっかけとなった。そのようにして、医療用として開発された理論が、宇宙飛行士の筋力維持装置に応用され、さらに商品化され家庭へと広まっていった。

しかし、アメリカと日本での特許を取得したこの技術商品化までは10年以上かかった。
なにより機器の商品化で苦労したのはインターフェイスだ。機器の形が研究用の測定器のままでは、医療機器ではないため、一般の方が使用する機器としてとうてい売れない。商品として売るためには、ユーザー、それもターゲットしているシニアの方が使いやすいものにする必要があった。メーカーにより使用感や装着感の検証が行われ、無事「ひざトレーナー」として大手家電メーカーから商品化された。

「ひざトレーナー」は、ターゲットをシニアとしているが宇宙飛行士の筋力低下を防ぐという点から考えてみると、若年層の筋肉増強としても開発は可能だったはずだ。
「たしかにそれも可能です。しかしますます高齢者が増えていく日本の状況を見ると、健康寿命を延ばすほうが課題だと考えました」。
健康寿命とは、日常的、継続的な医療や介護に依存しないという健康上問題がない状態で日常生活を送れる期間のこと。この健康寿命を延ばすには筋力を維持するための運動が不可欠と考えられている。
使用者からは、いままでの装置にはない力がつくようになったという声や、膝の痛みの軽減に繋がったという声をいただいているという。現在は、健康器具として販売されているが、医療器具としての可能性も検討している状態だ。

この技術は、宇宙や医療の分野だけでなく、もっと私たちの生活に近いところでも応用が可能だ。ダイエット器具として利用できないかということも研究の視野に入れており、メタボリックシンドロームの方のデータを取るといった研究も実際に行われている。現在の技術をさらに応用して、自転車を漕ぐような動きでベッドの上にいてもトレーニングができるようなものも開発しているそうだ。
「今後は変形性の関節症で痛みを抱え、思うように運動ができない方々の筋力を維持する医療器具を開発し、そういった方の力になっていきたいですね」と教授は話す。

また宇宙分野では、アメリカが火星に行くという計画があり、今までよりさらに長い期間、無重力空間に滞在する事が考えられている。宇宙船の中という限られたスペースでいかに効率的にトレーニングができるかという点で、無重力状態を作った上で検証を行う実験も進行中だ。医療用としても、宇宙での用途としても、今もなお研究と開発は続いている。

私たちの身近にある医療、リハビリ分野で活かされている技術は、宇宙飛行士の抱える問題の解決への鍵となり、宇宙での人間の生活のために考えられた技術は、我々の日常生活を支えるものとして、深く関わり続けている。「宇宙」というものは、私たちの想像以上に、私たちの近くにある。

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