食卓に宇宙データ?
衛星データで生産管理

衛星データで農産物の状態を把握。広大な農地を、適切な管理をデータで後押しする。

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  • 航空測量のパイオニア国際航業株式会社
  • 複数の衛星を利用して営農支援を行う
  • 地球温暖化や食糧危機など国際的な課題にも貢献

宇宙から我々の生活を支える、気象衛星やGPS衛星。従来は目的に応じて1機の衛星で地球を観測していることが多かったのですが、近年は複数の衛星による観測体制(コンステレーション)を構築することで、毎日もしくは1日に数回、観測できる環境となっており、それらを利活用した宇宙ビジネスが大きな広がりを見せ始めています。中でも最近、期待が寄せられているのが農業分野。都市計画や森林・環境保全など幅広い分野で衛星によるリモートセンシング(遠隔観測)サービスを展開している国際航業株式会社に、農業分野における衛星リモートセンシングの有用性と具体例、将来性について話を聞きました。

毎日観測できる衛星リモートセンシングが農業に有用な理由

現在、多くの農家では、人が農地を見て回り農作物の状態を直接確認することで、農作物の生育状況の確認や収穫時期、収穫量の予測をしています。しかし、農地の規模が大きいほど確認できるエリアはごく一部に限られ、農地全体の状況を把握することはむずかしく、このような課題を解決するための有用な手段として、現在、期待が寄せられているのが、衛星によるリモートセンシングです。

リモートセンシングとは、航空機や人工衛星、最近ではUAV(無人航空機)を使って離れた場所から地上の状況を観測し、得られた画像データから、さまざまな情報を読み取る技術のこと。地上からでは得られない広範囲の情報を一度に取得できる上、赤外線など可視光以外の波長の光を使って観測できるので、肉眼や普通のカメラ画像ではわからない農地や農作物の状態を知ることができるというメリットがあります。

日本における航空測量のパイオニアで、約40年前からリモートセンシングサービスを開始している国際航業でも、現在、複数衛星によるリモートセンシングサービスを提供しています。従来から進めてきた都市計画や森林・環境保全、防災・減災分野に加え、新たに農業分野にも着目。約7年前、営農支援を実現すべく、北海道にて実証試験を開始しました。

「我々が農業分野に着目した一番の理由は、やはり衛星コンステレーションによる観測サービスが開始されたこと。特に農業分野の場合、観測のタイミングと頻度が極めて重要なため、有用性は高いと感じています。」と、地球情報担当部長を務める新井邦彦氏。

衛星の機数が少ない場合、観測のタイミングと頻度が限られてしまいます。これに対し、複数の衛星による観測体制が構築されていると撮像機会が増えるため、ユーザが欲しいタイミングと頻度で画像を取得することができるのが大きなメリットです。さらに、画像データの購入費用の低下も利用分野やユーザの拡大の大きな要因となっています。

「国際航業では衛星を所有している複数の企業と業務提携を結ぶことで、観測のタイミングや頻度、画像データの種類や精度、予算など顧客の多様なニーズに幅広く対応できる態勢を整えています。」と新井氏は言います。

画像データで牧草を見分ける診断

最初に同社が取り組んだのは、酪農業向けの「牧草地の衛星画像診断」です。

技術本部・地理空間基盤技術部で、リモートセンシングを担当する鎌形哲稔氏によると「酪農業においても後継者不足は非常に深刻で、牧草地の手入れが行き届かないことが大きな問題となっていました。雑草が生い茂った牧草地で乳牛を育てると、栄養不足から乳質や乳量が低下してしまうため、酪農家の方々は飼料作物を乳牛に与えることで、栄養不足を補っています。その結果、コスト高により経営が悪化し、離農者の増加や新規就農者の減少などの悪循環に陥っているのです。この問題を解決するために、衛星画像を活用して広範囲にわたって牧草地の状態を診断することで、牧草地を最適な状態に戻す作業の省略化が図れると考えました」。

また、可視光以外の波長の光を使って観測できるのも、リモートセンシングの強み。牧草地は、同じ圃場の中でも牧草の生え具合や雑草の侵入状況によってムラができてしまいますが、例えば近赤外光を使用すると、牧草の種類や生育具合の違いを見分けることができ、牧草地の状態の良し悪しを診断できます。この情報を基に、JAや酪農家の方々は、牧草地を効率良く、最適な状態に戻すことができるのです。

国際航業が、実際に実証試験を実施したのは、北海道の広大な牧草地。「観測の結果、ここは牧草が多く生えている最適なエリア、ここは雑草が多い問題のエリアという具合に、これまで酪農家でもわからなかった牧草地全体の状態が衛星画像でわかるようになりました。これには、酪農家の方々も驚いていましたね」と鎌形氏。

この結果を受け、対象地域のJAでは、草地更新といわれる牧草の植え替え作業を行う圃場を効率よく最適に選定し、管轄する牧草地全体を最適な状態にすることに成功。徐々に成果が出てきているといいます。

小麦・米のタンパク質や水分の含有量から収穫時期を予測

また、国際航業では、小麦や米、大豆、茶などの「農作物の生育診断」の実証試験にも取り組んでいます。

小麦や米の品質を大きく左右するのが、タンパク質の含有量です。小麦粉の場合、ンパク質の含有量によって、薄力粉、中力粉、強力粉に分類されます。米の場合では、タンパク質の含有量が低い方がふっくら炊きあがり、美味しいとされています。そのため、小麦や米を育てる農家では、長年の勘や経験に基づき、肥料の量や与える時期を判断して、タンパク質の含有量を調整しています。

「リモートセンシングの技術を使えば、田畑を観測した画像データから、小麦や米に含まれるタンパク質の含有量を推定することができるのです」と鎌形氏。

国際航業はまず生産者の営農のタイミングごとに小麦の生育状況を診断。その都度、与える肥料の量や、追肥するべきかなどを判断していきました。小麦の場合、水分の含有量が収穫時期を決める上で重要になってくることから、水分量も衛星リモートセンシングによって診断。それにより、最適な収穫時期の予測や、収穫するエリアの順番を決定したのです。米に関しても小麦同様にタンパク質の含有量を推定することで、施肥量や追肥の要否を判断しました。

鎌形氏は、大豆や茶について「葉の色を観測することで生育診断をしています。農作物の種類によって、診断に最適な光の波長帯は異なりますし、求められる画像データも異なります。現在はまだ実証試験の段階ですが、今後、顧客のニーズや予算に応じて最適な画像データを取得するとともに、画像データの解析技術を高めて、1日も早い実用化を目指します」といいます。宇宙からの目線が、高品質な農作物の生産に活かされる日が近くなってきています。

地球温暖化や食糧危機など人類が抱える課題にも貢献

「実は、農業分野における衛星リモートセンシングは、日本よりもむしろ開発途上国や中進国の方が、貢献度もニーズも高いのではないかと考えています」と新井氏は語る。

そのため、国際航業では農業開発支援や営農支援も積極的に進めていく計画です。長年培ってきた土地利用や水資源に関するコンサルティング技術の海外展開に加え、農業開発支援や営農支援などと相乗効果を図っていこうと考えています。

「2015年12月に、COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で『パリ協定』が採択されました。その中で合意されたCO2排出量削減の枠組みの1つに、『REDDプラス』があります。これは、開発途上国が自国の森林を保全するために取り組んでいる活動に対して、国際社会が経済的な利益を提供するというものです。そこで、国際航業ではREDDプラスへの取り組みとして、リモートセンシングによる森林伐採の状況把握を進めているのです。それにより、森林伐採が進んでいる地域を割り出すと同時に、未来に向けて保全すべき森林と、地域住民が今後どのような場所でどのような農作物を植え、育成すればよいかを提言していきたいと考えています」と鎌形氏。

衛星リモートセンシングは、農業を支援するだけでなく、地球温暖化や食糧危機といった人類が直面している喫緊の課題の解決にも大きな貢献が期待されます。

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